工房長です。2月下旬〜3月は車検のご依頼が多くなります。今回は、車検時の基本整備項目のひとつである「クーラント交換」についてご説明いたします。凄い長文になってしまったので、先に要点と結論を書きます:

・VW/Audiは新車時のクーラントを7年くらい無交換でもエンジンに問題は起きません。
不適切なクーラント管理をするくらいなら、何もしない方がマシです。
・しかしクーラントの劣化が進むと、交換で回復することは困難になります。
・クーラントは、構造上1回の交換作業で全量の約半分しか入れ換わりません。
・以上のことから、クーラントの管理は定期的な予防交換が基本となります。


maniacsでは基本的には「車検毎のクーラント交換」をお奨めしており、またオーナー様が「交換不要」のご意向の場合は、交換をとくにお奨めはしません。


以下、具体的にご説明します(長文です)。

1. VW/Audi純正クーラントの耐用年数

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2010年以降のVW/Audiの車両には、G13という規格のクーラントが使用され、新車時には「純正G13を40%以上混合(純水60%未満)のクーラント」が充填されています。2009年以前の車両はG12++という規格のクーラントです。G13はG12++に対して環境配慮(非毒性、生分解性)を向上したもので、G12++に混ぜても大丈夫ですので、2009年以前の車両への補充または交換用としてもG13を使用できます。G13は欧州車用の規格で、日本規格との相互認証等はありません。

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G13の耐用年数または推奨交換時期について、純正品のボトルには記載がありません。VW/AudiではG13を「ライフタイム・クーラント」(一生使える冷却水)としており、文言どおりに解釈すれば「交換不要」ということになります。日本向けの車両の取扱説明書および正規の整備(車検・点検の内容)でも交換サイクルの記述はなくクーラントは「液量と漏れの点検」のみとなっています。しかし「交換不要」を謳っているからといって、劣化しないわけではなく、新車から3年経過するとクーラントの色は実際に黒ずんできます。「劣化しても重大故障の直接原因にはならない」という意味だと思われます。

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では、G13の耐用年数は本当はどのくらいなのか?検索しますと、G13規格認証の市販クーラント(ユーロール、DAC等)は「耐用5年」または「5年毎の交換推奨」となっています。種々の関連情報を調べた感じでは、国産車メーカの従来のLLC(耐用2年)よりはロングライフで、所謂Super LLC(耐用10年以上)よりは、もしかするとG13の実質のライフは短いかもしれない(←憶測です:環境配慮のため強い薬品が使えない?ので)という印象です。VW/Audiは「交換不要」と言っているので、あくまで私の勝手な一見解にすぎませんが。

2023.8.17工房長追記:VW/Audi純正クーラントは、2022年頃からG12EVOに全面的に置き換わっており、G13の純正クーラントは供給終了しています。G12EVOは、G13の完全互換品で、G11、G12、G12+、G12++、G13に対して互換性があります。本記事は、G13を全てG12EVOと読み替えていただいて、差支えありません。内容は全てそのまま通用します。詳細はこちらをご覧ください。

2. クーラントを交換しないとどうなるか?

クーラントは交換せずに使い続ければ劣化していきますが、劣化したからといってすぐには何も起こりません。エンジンオイルとは異なり、クーラントは劣化してもエンジン不調などのドライバーが自覚できる症状は基本的にありません。エンジンは相変わらず調子良く回り続けます。劣化するまでに5年は持つし、劣化しても症状がないので少なくとも7年は全く問題ないでしょう。いや多くの場合10年以上何も起こらない可能性が高いと思います。ただし、クーラントの劣化は年数とともに静かに確実に進行します。

クーラントの劣化が進むと、エンジンの冷却水路各部やラジエータ等に錆びやコロージョンが発生し、それが剥がれてクーラントに混ざって循環し、各部に堆積したり固着します。何かの理由でホースやポンプを外した際には、内部に白っぽいカスとか赤茶色い汚れが堆積してたりします。それでも流路が閉塞するほど詰まったり、ポンプが回らなくなるほど錆びるのは稀で、内部がいくら酷い状態でも10〜15年くらいは無症状の場合がほとんどだと思います。エンジン冷却能力の限界値は低下するかもしれませんが、通常の走行にはまず支障ありません。

つまり、内部など見ずに、ただ普通に走って、車を道具として使い、新車から10年以内に乗り換えるなら、クーラントは無交換で不都合ないのです。「新車から5年か7年乗ったら乗り替えるし、あとのことは知らない」という乗り方なら、尚のことクーラントは本当に何もしないで大丈夫です。クーラント交換は施工する側から見ても手間(後述7項)がかかって仕事の効率も利益率も良くないため、最近は国産車/輸入車を問わずディーラーでも積極的に交換をお勧めしていないかもしれません。

3. 冷却系のトラブルにはどんなものが多いか?

冷却系で実際の故障事例として多いのは、ウォーターポンプの故障、ポンプ周りの樹脂部品のクラックによる漏れ(←最近2.0TSI系でよくある)、ホースやジョイント部からの液漏れ、サーモスタットの故障、センサ類の故障、コントロールバルブの動作不良、ヒーターコアの目詰まり、電動ファンの故障、ラジエータコアの損傷等です。これらの自然故障は早い場合は5年以内に発生することもあります。

その大半は部品自体の故障や劣化または機械的破損であり、クーラントの劣化が原因に関係する項目は、ヒーターコアの目詰まりくらいです。文献には「クーラントの劣化によりキャビテーション腐食が起こりリンダーライナーが損傷する」と書かれていますが、高速道路や峠道を走ったくらいでシリンダーは割れないし、腐食していても割れなければ発見できないので、気づくこともありません。従って整備の現場でクーラントの劣化に起因したエンジン本体の故障に出会うことはまずありません。

ただし、一部の車種ではヒーターコアの目詰まりが発生し易く、これはクーラントの交換とも密接に関係します。クーラントの流路にフィルター等はなく、コロージョンは低い場所、狭い場所に溜まる傾向があります。車種や走行状況によってはヒーターコアにコロージョンが堆積、付着、固化し、暖房の効きが悪くなります。修理はヒーターコアを新品交換する必要があり、相当の費用が発生します。エンジン回転をあまり上げない、街乗り、チョイ乗りの多い使い方で発生リスクが高く、クーラントを無交換の場合、早ければ5〜7年程度で発症するケースがあります。

4. クーラントはどのように管理したら良いのか?

001クーラント(液体の状態)自体が原因でトラブルになるのは、全く何もしない場合よりも、むしろ不適切な管理を行った場合です。例えば市販の(G13への混合が未確認の)添加剤、防錆剤などを加えた場合は、元のクーラントと成分が反応してコロージョンが発生したり、固化してしまう等のリスクがあります。

エンジンのウォータージャケット内部は普通には見ることができず、どうなっているか状態を確認できません。何もしなくて良いところに、わざわざ心配ごとの種を巻く必要性が全くありません。「エンジンに良い」と謳ったケミカルを入れてみたくなる気持ちも分かりますが、やたらなものは使わない方が無難です。添加剤、防錆剤をもし入れるなら、VW/Audiに対して多数の実績のあり、確実に信頼できるものに限る必要があります。希釈用の水も、飲料用のボトルウォーターでミネラル分を含むものは混ぜない方が良いです。希釈は真水が原則なので、市販の精製水か、なければ日本の水道水は補充用に使って問題ありません。

また、冷却系が正常な場合のクーラントの減少率は、一般的な乗り方なら1年に200ccくらいです。これは蒸発して自然に減っていくためで、その程度の減りなら補充なしで次の車検までは持ちます。逆に、それ以上に減る場合は冷却系に何か異常がないか点検を要するのですが、減るたびに少しずつ補充を繰り返してしまうと、結果として異常個所が見落とされ放置されることになり、重大な故障に至るリスクが増します。小まめな補充はしない方が良く、従って日頃からの液量確認も不要です。

「屈折率計でクーラント濃度を確認する」という管理もありますが、濃度は何もしなければ変化しません。濃度が変化するのは何かを注ぎ足したからです。それで濃くなった薄くなったと言うのもナンセンスです。クーラントが劣化するとpHが酸性に寄っていくので「pH計で酸化を確認する」のも有効ですが、酸性になったときには既にエンジン内部は錆び始めているかもしれません。つまり、濃度とpHを測定して管理するのは、回りくどい上に確認の意味が不明確です。

クーラントの成分は化学反応性があるので、異種銘柄を混ぜないことも重要です。クーラントには、防腐剤、消泡剤、鉄用とアルミ用と銅用の防錆剤、pH調整剤など、様々な化学物質が含まれていて、互いに反応しない組合せで調整されています。異種クーラントを混ぜるとそれらが化学反応してしまうリスクがあります。VW/Audiで混合を認めているのは、上表のとおり主にG13のレトロフィット(=従来品への混合)のみです。純正クーラント同士でも上表で×印の組合せは混ぜられません。

従って、正規ディーラー以外の中古車店で「納車時クーラント交換無料サービス」等、安価なクーラントが使われる可能性がある場合は、やらない方が無難です。後述しますが、クーラント交換で銘柄を変えると半混ぜになってしまうためです。VW/Audi純正のG13クーラントだけを使い続けるのが安心です。

結局、クーラントはエンジンオイルとは異なり、下手に管理するよりは全く何もしない方がマシ、ということになります。クーラントが減少して万一不足すれば警告灯が点きますし、車検の際にはプロが点検して補充等してくれるので、オーナー様は日常的には「クーラントを全く気にしない」無管理でOKなのです。

5. クーラントで重要なことは何か?

ではクーラントは入ってさえいればエンジンの調子と全く無関係かというと、関係する項目が一つだけあります。それはクーラントの濃度です。

005クーラントの濃度は、必要な不凍性能に合わせて選定しますが、日本の大部分の地域では-24℃の不凍性能があれば足ります(-36℃,-52℃の必要性はまれです)。つまり、希釈割合は 2:3 または 1:1 または 3:2 のどれでも良いわけですが、実はこの希釈割合はクーラントの凝固点(凍る温度)だけでなく沸点(沸騰する温度)にも関係します。1:1の希釈を標準とすると、2:3の薄めの希釈では沸点が低く、3:2の濃いめの希釈では沸点が高くなります。

エンジンで熱せられたクーラントはラジエータに流れ込んで冷やされて再びエンジンへと循環しますが、エンジンの燃焼室周り(高温部)の温度はクーラントの温度(つまりラジエーターの冷却温度)よりも実はクーラントの沸点の方が支配的です。エンジンの運転状態が同じであれば、クーラントを2:3の薄い希釈で使用した場合に比較して3:2の濃いめの希釈では、運転時のエンジン内部(シリンダー等)の温度が約10℃くらい上昇すると思われます。

・クーラントが濃い
 ⇒ エンジン温度が高め
 ⇒ 燃費が良い、オイル劣化は早目

・クーラントが薄い
 ⇒ エンジン温度が低め
 ⇒ オイル熱劣化が少ない、カーボン堆積は多め、燃費は良くない

通常運転時のエンジン温度は高すぎても低すぎても良くないので、メーカーの期待するクーラント濃度をキープするのがいちばん安心です。実際に体感できるほどの差が出るかどうか分かりませんが、ベストコンディションという意味では、余計な心配要素はない方が良いです。

従って、濃度がわからなくなるような管理は良くありません。クーラントが年に200ccくらい減少するのは蒸発のためですが、蒸発するのは主に水で、クーラントの成分であるエチレングリコール等はほとんど蒸発しません。なので、減った分を補充するのであれば真水(まみず)または希釈済みのクーラントが適当です。それで濃度は概ね保たれます。極寒地を除いては、1:1希釈を標準として大きく外れないようにするのが良いと思います。少しの濃度の違いは問題ありませんが、「防錆のために原液を足して濃いめにしとこう」なんてやり方は、良くないのです。

6. maniacsで定期交換をお奨めする理由

maniacsでも車検の際「交換不要」と仰っていただければ、蒸発した分を足すだけです。減少量が正常範囲内であることを確認し、1:1希釈の溶液を適正レベルまで補充して完了。それで新車オーナー様はその車両を売却するまで問題なく乗れます。

その車両は、いずれ下取りを経てセカンドオーナー様に引き継がれると思いますが、その後も大半は問題なく稼働し続けます。セカンドオーナー様の車両も当店のような整備工場には同様に入庫しますので、拝見した際には「前のオーナーはクーラント無交換だったんだろうな」と一見して分かるくらい黒ずんでいたりします。そのせいで、ポンプやセンサ等の故障リスクも多少増していることでしょう。それでも運が良ければセカンドオーナーさまも問題なく乗り続けられます。確率の問題なので「10年以上無交換だと必ず故障する」というほどの必然性はありません。

ずっと無交換だった車両は、たまたまポンプの寿命で交換する際などに中を開くと、どこかが固着していたり、ドロっとした汚れが溜まっていたりして、余計な手間と費用が加算される可能性があります。運が悪いと、詰まりや錆び等で修理費が高額になり、見積りを見てあきらめて廃車、お乗換えの判断となるケースも実際にあります。

クーラントの無交換は、平均的に維持費が上昇するというよりも、セカンドオーナー様、サードオーナー様のリスクが高まる傾向にあります。大ハズレを引いたら廃車です。10年超えの中古車には、それもやむを得ないリスクかもしれず、運がなかったと。前のオーナー(新車時のオーナー)様からすれば、知ったことではありません(苦笑)。

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しかし整備の現場でそういう車両を目の当たりにしますと「メンテナンスを行って良い状態を保つことが機械の正しい使い方」と感じます。善意とか優しさとかカッコいい話ではなく、あるいは偽善とか商魂でもなく、新車も古い車も分け隔てなく整備しているmaniacsにとって理屈以前の率直な感覚です。当店のスタッフやメカニック自身が、自分の車をどうしているかというと、例外なく車検毎にクーラントを交換しています。クーラントを定期的に交換すれば、最も肝心な濃度も自ずと適正に保たれますし、見えない部分も状態を保った方が「安心して、気分良く乗れる」からです。

7. 何故、定期交換(=予防交換)か

クーラントは、排出用のドレインホールがなく、当店で交換の際はホースの一箇所を外して液を抜きますが、エンジンの構造上クーラントは全体の半分くらいしか抜けません。「交換」というと全部入れ替えるようなイメージに聞こえますが、実際には6〜7リットル以上入っているクーラントのうち3〜4リットルくらいしか交換できないのです。そのため、一旦クーラントの劣化が進んでしまうと、交換しても十分に状態を改善できません(汚れが半分に薄まるだけ)。2回、3回と立て続けに交換して全量交換に近づける方法もなくはないですが、それだったら最初から定期的に交換して状態を保った方がよほど良いです。

さらに、仮にクーラントの液体を全部入れ替えたとしても、エンジン内部のクーラントの流路を綺麗にクリーニングする方法などありませんので、見えないところに溜まった汚れはそのままです。つまりクーラントは一度状態を悪くすると、元通りのリセットができません。「無交換」は極端に言えばエンジンそのものを使い捨てにするようなイメージになります。それでもエンジン冷却系の寿命は、車全体の寿命と同じくらい長い場合が殆んどなので問題ないわけです。使い捨ては自動車メーカーのビジネス的にも、やぶさかでないかもしれません。

つまり、どちらが良い悪いではなく、「冷却系の状態を保つように使う」か「使い捨て的に使う」かの考え方の違いです。その中間的なやり方というのは、考え難いです。クーラントを交換するのであればそれは「予防交換」であり、予防交換を「するか、しないか」の二者択一です。交換以上に有効な管理はないし、劣化してからの交換は意味が半減なので、予防交換するならする、しないならしない、それ以外のことは考えるだけ無駄と言えます。そして、交換するかしないかは「考え方次第」であり、オーナーさまのご判断ということになります。

8. クーラント交換の方法とオーナー様のご協力

クーラント交換、再充填の方法は、一般的に「自然落下」による方法と「クーラントチャージャー」というバキューム機械を使った強制充填とがあります。クーラントチャージャーは、短時間の作業で隅々まで充填できますが、冷却水流路内を真空近くまで減圧するため、ラバーのホース部分は一時的に平たく潰れる場合があります。運転時は正圧が掛かるホースやパイプのジョイント部、各部パッキンにも負圧が掛ります。そのため、古い車両はホースのひび割れ、パッキンの密着低下など、無用なトラブルのリスクになります。

maniacsでは、車両に負担を掛けたくないので自然落下で抜き取り、自然落下で再充填しています。自然落下の方法は充填が完了するまでに手間と時間が掛るという難点があります。クーラント交換後にエンジンの暖機と自然冷却、クーラントの注ぎ足しを繰り返して充填するので、通常は二日に渡って作業します。車検時の交換をお奨めするのもそのためです。定期管理という意味でも車検毎がお奨めです。

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自然落下による方法でクーラントを充填した場合、きちんと施工しても施工完了後しばらく(毎日乗る場合は1週間程度)は、リザーバータンク内の液面が若干低下する場合があります。とくにPolo(6R,6C)等はエンジンの構造およびレイアウトの関係でその傾向があります。maniacsでクーラント交換を行った場合は、説明書と予備の補充用クーラントをお渡ししており、交換後しばらくは気にかけてチェックしていただくご協力をオーナー様にお願いしています。

車検の際に、クーラント交換を「やるか、やらないか」迷ったことがありますでしょうか。答えは「どっちでも良い」です(笑)。どっちでも良い、の内訳は上記のとおりですので、オーナー様のご意向次第でお決めいただければと存じます。オーナー様ご自身もどっちでも良い場合は、maniacsでは車検毎のクーラント交換をお奨めさせていただきます。