工房長です。VW/Audiで現行車種に主に適用されている、504.00/507.00純正オイルが新しくなりました。2020年1月8日のアナウンスで、実際の仕入商品が変更になったのは概ね2月からです。

純正オイル01M純正オイル02M










1リットルボトルの表と裏の写真を撮りました。各写真の左側が従来品、右側が新しい商品です。純正品番も変更になっていますが、併売ではなく後継品として全面切替になります。従来品はディスコンになりますので、流通在庫を除いて今後は入手できなくなります。

Audi1
Audi純正オイルもVW純正オイルと同様に、新しくなります。Audi純正とVW純正の違いはボトルの外装デザイン(および純正品番)のみで、中身のオイル自体は全く同じものです(従来品も、Audi純正とVW純正の違いはボトルの絵柄だけで中身は同じでした)。


maniacsでは、ピット用のペール缶は既に新しいものに切り替えましたので、ピットのオイル交換で純正オイルをご指定の場合は、新しいものが入ります。

Webshopで販売している1リットルボトルは現時点では従来品と新しいものを併売しています(理由は後述)。従来品は在庫が無くなり次第、販売終了となります。


純正オイル03Mさて、従来品と新しいものは、どこが違うのでしょう??? 

ボトルの裏面を見ますと、504.00/507.00の規格番号は変更されておらず、同じ。オイルの性能、信頼性や耐久性は、従来品も新しいものも、同じVW/Audiの要求スペックを満たしています。つまり同等性能と考えて良いと思います。

スペック上で唯一の違いは、粘度です。従来品の5W-30が0W-30にワイドレンジ化されています。従来品で日本における寒冷時の始動に課題があったとは思えませんので「滑らかな回転と燃費性能の向上が狙いか?」とおぼろげに想像できますが、そもそも「なんとかW-なんとか」というマルチグレードの粘度表記は非常に解りづらいので、ここで「粘度」の観点にしぼってちょっと詳しく説明してみます。

解りにくい理由のひとつは、世間では素人に解り易くしようとして端折った説明ばかりが横行しているからです。例として「解り易くしようとして解り難くなってる絵」をいくつかご紹介しましょう。これ見たら余計に混乱するという方は3段落下の結論まで読み飛ばしてください。

マルチグレード粘度02マルチグレード粘度05







上左の表記は「外気温度の目安」で表わした表です。昔はカー用品量販店のエンジンオイル売り場で良く見かけましたが、最近この絵は空冷のバイク用くらいにしか使われません。上右の表記は「寒い方は外気温、熱い方は粘度」で表わしてあり、技術的には正しい表記ですが、受ける印象は左の表記とほぼ同じです。上図のイメージは、いったん綺麗に忘れましょう。

マルチグレード粘度03








こちらの表記は「記号と数字の意味」をより直接的に説明していて、もちろん正しい説明ですが、具体的にどういうことかピンと来ませんね。この数字の大小だけの漠然とした感覚も、間違いの元なので忘れましょう。

マルチグレード粘度06









こちらはMOTULのオイルのスペックの例で、「工学的に最も正確」な表現ですが素人にはどう読み取って良いのか解らない感じです。これを解ろうと頑張るのもやめちゃいましょう(笑)。

さてここで結論を書きますと
「0W-30は5W-30に比較して、低温側だけでなく高温側も含めて、上位互換」ということです。「0Wは柔らかすぎて心配」のような感覚は誤りとなります。

マルチグレード粘度00-2


















エンジンオイルは冷たくなると粘度が上がり(=固くなり)、熱くなると粘度が下がり(=サラサラになり)ます。両対数グラフという描き方をすると、オイルの温度と粘度の関係は概ね直線で表わされます(絶対粘度と動粘度の違いとかありますが、説明に支障ないのであえて混同して書いています)。上の図解はそれを表しており、さっき私が描いたものです。

エンジンオイルの規格では「オイルの粘度(正確には絶対粘度)が約3500以上に固くなるとエンジンを始動するのに支障がある」ということになっていて、「0W」とか「5W」はオイル粘度が3500になってしまう「温度の指標」です。0Wは−30℃、5Wは−25℃で、上図のように粘度3500のところに横に並びます。その温度まで冷えてもエンジンを始動できる、ということになります。

0W-30の後半の「30」は、オイルの温度が100℃のときの「粘度(正確には動粘度)の指標」で、上図のように温度100℃のところに縦に並びます。なんとかWと、ハイフンなんとかは、上図のような縦横関係になり、この2点を結んだ直線がそのオイルの粘度特性です。5Wを赤線0Wを青線で描いています。100℃のところで赤線と青線が交差し、100℃を超えた高温では、0Wの方が粘度低下が少ないことがわかります。

最近のドイツ車は冷却水温を高めに管理しているので、オイルの温度は走行時に概ね85℃〜100℃くらいの範囲にあると思います。スポーツ走行などでとくに高付加の運転を行った場合は、オイル温度は水温を超えて120〜130℃くらいまで上昇するかもしれません。その高温範囲も含めて、スペック上で「0W-30は5W-30に比較して上位互換」ということが、このグラフから読み取れるわけです。

基本的には滑らかさと燃費向上の効果が見込める0Wへの変更だと思いますが、高速走行やスポーツ走行などの高温時も含めて、安心して新しい純正オイルに切り替えていただいて大丈夫ということです。

純正オイル04Mさて、ボトルを良く見るともうひとつ違いが。

従来品は供給元として「カストロール」という表記がありますが、新しい方はこの表記がなくなっています。いったいどこが作っているのでしょう???じつは新しいVW/Audi純正オイルは、シェル石油が供給しています。

っとなると、従来品と新しいものを混ぜて良いか?という疑問が湧きます。純正オイルの後継品ですので混ぜても問題は起こらないでしょう、たぶん。しかしmaniacsの(とくに工房長の個人的な)見解としては、できれば可能な限り混ぜない方が無難だと思います。理由はサプライヤーが変更になっていますので、性能は同等以上でも、ベースオイルと添加剤の選び方、考え方が違っているかもしれず、その場合は混ぜて使うと本来の性能を発揮しきれない可能性があります。

その意味もあり、maniacsでは上記のように全部説明した上で、新しいものと従来品を在庫がある限り、併売している次第です(売り切ってからの切り替えの方が簡単でしたが、あえて併売期間を設けました)。また、maniacs STADIUMのピット作業用のペール缶は(補充ではなく交換用途なので)既に新しいものに置き換えを完了しました。maniascとしての結論は、

★オイル交換の場合は、安心して新しいものを入れてください。
★従来品が入っている場合の補充用は従来品をお使いください。


ということになります。従来品の1リットルボトルは在庫限りですので、補充用が必要なオーナーさまはお早目にお買い求めください。なお、上記のようにVW純正とAudi純正はボトル外装の違いだけで、中身は全く同じものですので両者は混ぜても問題ありません。

VW Audi純正エンジンオイル(商品ページ)

いまmaniacsデモカーには違うエンジンオイルが入っていますが、後日新しい純正オイルに入れ替えたら、感想など掲載したいと思います。


以下、完全に漫談:

今回、上記のグラフで粘り気を擬態語で表現したのですが、その際に気になって少し調べてみました。「しゃびしゃび」というのは、車関係の人や流体工学とかの人は比較的普通に使う表現(=ほぼ公用語になってる)と思いますが、どうもそれ以外では通じない場合もあるようです。工学の方言かな?と思い、調べてみるとなんと愛知をはじめ岐阜、三重など周辺地域の方言とのことでした。

意味は「本来ならもう少し粘り気があってしかるべきものの、とろみが足りなかったり、ゆるかったりすること。ややマイナスのイメージが含まれる点で、共通語の『さらさら』とはニュアンスが異なる」と。実に的確な説明。愛知と言えば、ある意味で日本の自動車産業の発祥地と申しますか中心地と申しますか。その地方の方言が車関係で公用語化したのかと、とても腑に落ちました。

もうひとつ、さらに余談:

エンジンオイルの粘度と言うと、ほとんど反射的に「バナナで釘が打てる」というセリフを思い出します。少年の頃にTVコマーシャルが強烈な印象を残しています。オイルが低温でネバネバになって「これじゃぁエンジン掛らないだろう」と視覚的に理解できる優れた映像でした。当時(1977年)のオイル技術の中で、この製品は傑出していたのだと想像できます。久しぶりにこの映像を見て、ナレーションを聞き、とても懐かしかったです。



あ、今回のVW/Audi純正オイルの変更は、カストロールからシェルですので、モービルは関係ありませんでした(苦笑)。つい懐かしすぎて、関係ない動画で締めくくってすいません。閑話休題。

今回「粘度」の「規格表記」にしぼって書いてみましたが、オイルの性能は粘度だけではなく、オイルの話は語り尽くせないくらい深いので、機会がありましたらまた書いてみたいと思います。では。