工房長です。先日 maniacs DSG paddle extension TSI standard の開発状況 をお知らせしました、その続報です。商品のデザイン、コンセプト、思い入れなどは次回に譲るとして、今回は実際の開発はどんなふうに行なわれているのか、開発に半年以上もいったい何をやっているのか、その技術的な側面を一気にご紹介したいと思います。今回はmaniacらしいマニアックな話です!!

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さて、maniacsのパドルエクステンションシリーズはこれが4作目になるのですが、開発は一環して石塑粘土でモックアップの製作から行なっています。近年、世の中的には最初から3D_CAD上でデザインする方が主流なのですが、直接手に触れる機能系パーツでもあるので、初期の段階から外観デザインと操作性のバランスを実際の物で確認しながら進める意味もあり、モックアップを作っています。

手作りモックアップを基に3D_CAD上でモデル化するには、まずモックアップを精密に三次元計測し、そこから正確なディメンジョンになるよう全ての面をCAD上で貼り直します。3D_CADには大きく分けてソリッドモデル型とサーフェースモデル型があり、メカ設計の分野はソリッドが主体、デザインの分野はサーフェースが主体です。maniacsではこの開発にはサーフェース型のCADを適用しています。

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パドルエクステンションの開発は、工房長と、CADモデル化に精通したデザイナー氏(毎度同じ人)との二人三脚で行なっています。掲載の資料はその連絡メモの一部です(画像は拡大できます)。外観デザインの意図を汲み取ってCAD上で面を形作るのはとても微妙で難しい作業です。ご協力いただいているデザイナー氏は卓越したスキルとセンスを持つ人で、工房長は絶大な信頼を置いています。

連絡メモは、ときにはイメージを文章で表現し、ときには0.05mm、0.5°等の細かな指定もします。この段階で、物作り上の要所も押さえておく必要があります。きちんと品質を担保できるように製造技術的な配慮が欠かせません。あとからではどうにもならない部分も多いので、外観デザインと同時並行的に検討を進めていくのです。上の左図は製造技術の側面、右図は外観デザインの微調整です。

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製造技術の要件と外観デザインの要件がコンフリクトする場合もあります。そして実はそれこそが開発者の腕の見せ所でもあります。上の左と真ん中の連絡メモはまさにその例です。裏面形状と外観デザインとの狭間で肉厚が不足する、厚くなりすぎる、というものです。何かを妥協するのではなく、アイディアを出し合い、細かな工夫を重ねたり、逆に大胆に外観デザインに取り入たりして解決しています。

上の右図は、商品がお客様の手元に渡ったあとで車両に装着する際の作業性への配慮です。装着前に車両に仮合わせする際に両面テープの厚みがない分だけ座りが悪いと感じてしまうことへの対策、両面テープを貼る際にエアが気泡にならないためのエア抜き溝、貼る位置を分かり易くするガイドラインです。設計のこの段階でこうした配慮を盛り込むことで、maniacsの「簡単装着」を実現しています。

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外形形状が固まったところから、内部構造のさらに詳細な検討と、製品品質を安定させるためのモールド成型性、製造組立性の細部を詰めていきます。形状や寸法の非常に細かな部分まで、100分台の寸法を議論し、調整します。パドルエクステンションは一見簡単なようで、きちんと作ろうとすると意外と難しい品物です。これまで3作品を作った経験も踏まえて設計段階でフルに投入していくのです。

こうした開発手法は、製造側からはコンカレントエンジニアリングとか、設計側からはフロントローディングという言い方をします。製造段階の課題を予測して予め設計に盛り込んでおくので、こうした連絡メモの例に見るとおり開発設計には時間がかかりますが、安定して高品質に製造するためには欠かせません。上左図の例のように、より良いものを目指すににはこの段階で検討の変更もあります。

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もう概ねこれでOKでしょう、という段階になってからも、さらに細かな調整は妥協なく続きます。CADデザイナー氏(勤務は遠隔です)も飽きることなくとことん付き合ってくれて、この段階になってから新幹線に乗ってF2Fで最終ミーティングです。上の左図は操作時に指を掛ける部分の形状の詰めです。この部分が操作感を決定づけるので、機能パーツとしての最重要箇所と言ってもよいです。

新幹線で出張までして何を詰めたのかと言うと、操作部のR面が終わる先端部分の面のつながり具合。簡単に言うと手触りと外観を妥協なく両立させるのが目的です。たぶん適当に30分で描画しても、ほとんどのユーザーは何も不満に思わないレベルにはできるのです。しかし艶ありの塗装をして商品になった際にハイライトの入り方が綺麗なカーブを描くように、という、もはや凄まじい拘りです。

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そして本当の最終段階で、3D_CAD上のモデルと切削で作った二次試作品を見比べつつ、飽きるくらいまでじっくり観察します。何回も、何時間も観察していると、外観デザインの本当に細かなことに気付いたりします。稜線のRが一定だと微妙に人工的に見えるから連続的に変化させた方が美しいとか。・・・どこにも不自然さのない完成度に至ったと思えるところまでやりきって設計を完了します。

ここにご紹介した連絡メモは、これでもごく一部です。たかがパドルエクステンションと言うなかれ、本当に本気で開発しています!っということをお伝えできたら、と思う次第です。完成した製品は意外なほどシンプルなものです。ごく自然な出来栄えで、奇をてらった派手さもなく、言わば「あたり前」のように見えるかもしれません(^^; ・・・商品のデザイン・コンセプトなどは、また次の記事で。