maniacs10工房長です。先日の開発記で「ネジ頭の形状とばか穴の直径についても作業性や固定強度へのこだわりがあります」という記述について、「具体的にどのような内容でしょうか」というお問い合わせをいただきましたので、その「こだわり」を少しご紹介いたします。

まず、ネジ頭は大別すると、なべ頭やトラス頭のように座面がフラットなものと、皿頭や丸皿頭のように座面がテーパー(円錐状)になっているものと、2種類があります。皿ネジを使う場合は、被締結物のネジ穴に皿モミと言われるテーパ(円錐状)のザグリを施して、ネジの座面が被締結物にフィットするようにして使用します。

日曜大工などではこの2種類の違いは、ネジ頭が出っ張るかフラットに納まるかの、仕上がり形状の違いととして捉えられていることが多く、自動車アフターパーツにおいても実際そのような使われ方をしている場合も多いです。しかし、実は機構学的に見ますと、両者の最大の相違点はネジのセンタ(中芯)が決まってしまうかどうかという点にあります。

皿ネジはテーパ状のザグリ穴にテーパ状の頭をフィットさせるので、締め込むと被締結物とネジのセンタが完全にピタッと一致してしまうのです。なので、複数のネジで締結する場合のピッチずれや、被締結物と雌ネジ(タップ)の位置ずれに対するトレランスが確保できません(雌ネジがタップではなくナット掛けの場合は、ナット側でトレランスを確保できます)。

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自動車のメーカーが組み立てに使用しているネジで、皿ネジが極端に少ないのはひとつにはそのためです。プロの機構設計者が皿ネジを使うのは、意図的にセンタ決めたい場合に限られ、ほとんどの場合トレランスが必要なので座面のフラットなネジを使用するのです。今回、このm+ Right Side FootPlate for Golf7は、固定構造上でネジ位置のトレランスが肝心でしたので、皿ネジは使えません。そうすると、必然的に被締結物の穴は皿穴ではなく貫通穴(=いわゆる「ばか穴」)で、ネジ頭は被締結物の上に出っ張ることになります。

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その前提で考えますと、m+ Right Side FootPlate for Golf7の固定ネジに求められる要件は、
1) ネジ頭が薄くて装着状態で使用上の邪魔にならないこと。
2) ネジ位置のトレランスを確保しつつ、締結強度が保てるように座面が十分に広いこと。
3) 上記1)2)の結果ネジ頭は必然的に大きくなり、目立つので、デザイン的にカッコ良いこと。
といった内容です。そして、実際にネジのサンプルを何種類も取り寄せて、ネジ周りの設計を進め、試作品で締結の評価と、デザイン(見栄え)の確認を行いました。

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ばか穴の直径は、通常はM3のネジに対してφ3.5mm〜大きくてもφ4mmまでが一般的ですが、今回は作業性の向上とピッタリと装着するためのトレランスを十分に確保するため、ばか穴をφ4.5mmまで広げています。その上で締結強度と安定性を確保するために、ネジ頭の直径はφ8mmと特大サイズをチョイスしています。しかも、邪魔にならないようにスーパーシンヘッド(極低頭)です。特注ではありませんが、かなり特殊なネジで、この形状のネジを探すのに非常に苦労しました。

maniacs11そして肝心のデザインについては、ネジ頭の直径が特大で、かつ厚みは極薄で、しかも工具穴は小さめの1.5mmの六角。一見して普通のネジには見えないようなメカニカルな外観です。このネジ頭の目立つ外観を逆手にとって、ネジの配置をバランスさせることで、全体のデザインの中にうまく取り込んで活かしています。左の写真をクリックして拡大してみてください。下2ヶ所のネジが絶妙なアクセントになり、いい感じにキマったと思います。

そして、1.5mmの六角レンチはやや一般的でないので、商品に工具を添付としました。たかがネジ、されどネジ、なのです。
m+ Right Side FootPlate for Golf7(商品ページ)