maniacs 工房長 大谷です。2022年2月にレギュラー化しました乾式DCTオイル交換は、お陰様で大人気で、多数のお客様にご依頼いただき施工させていただきました。この乾式DCTオイル交換作業では、これまではDCTキャリブレーションを標準的に実施しておりましたが、2022年6月25日から当店での乾式DCTオイル交換の際のDCTキャリブレーションは原則として行わない方針に変更しました。

以下その理由を少し詳しくご説明しますが、以下の内容は、ほとんどのお車には全く該当しない、ごく一部の車両の説明ですので、ここで読むのを終わりにするか、お読みになる場合は全体感が分かるように最後までお読みください。またこの説明は、湿式DCTには一切関係ありませんので、誤解なきようお願いいたします。

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DCTキャリブレーションは、簡単化して説明しますと、クラッチの「遊び」と「踏みしろ」に関するメカトロニックの学習データをリセットし、再学習を開始させるものです。以前の記事のQ4に説明したとおり、乾式DCTの場合はオイル交換後のキャリブレーションを、やってもやらなくても、どっちでも良いのですが、キャリブレーションを実施することで、乾式クラッチの正常な摩耗による半クラッチ過多や軽微な変速ショックに対して多少の改善効果が得られる場合があるので、従来は標準的にそれを実施しておりました。

しかし、乾式DCTの車両のごく一部(=非常に稀にですが)で、アキュームレーター(=メカトロニックの作動油圧を発生させる機構)の圧力不足等の不具合が潜在している個体があります。車両の部品に起因する不具合なのですが、DCTキャリブレーションによりその潜在的な不具合が顕在化するケースがあります。これはトランスミッションの状態をリセットすることで、正常でない箇所が明確になるための影響です。DCTオイル交換やキャリブレーションによって何かが悪化したわけではなく、もともと故障が潜んでいた車両個体ということです。

この潜在不具合は、そのまま乗っていると近い将来に発症する可能性が高いので、お出かけ先等で故障するよりは、早めに発見して修理するのは本当は良いことです。しかし、その説明をご理解いただけないケースもあり(=当店の施工のせいで壊されたという誤解)、まぁDCTオイル交換をした直後に警告灯が点灯した場合など、そのせいだと思ってしまうお気持ちも分からなくはないので、そうした事案を未然に避ける意味で、当店の乾式DCTオイル交換では原則としてDCTキャリブレーションを行わないこととした次第です。当店としましても、お客さまのお車の潜在不具合をわざわざ掘り起こして顕在化させたい気持ちは全くございません。

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アキュームレーターの圧力不足の故障に関して、インポーターでは基本的に(現在は)オンコールで無償修理の方針としているようです。つまりこの故障が発症した場合には、正規ディーラーに相談するのが第一選択肢になると思います。よってこの不具合は極端に恐れる事象ではないです。また、再度明記いたしますが、ほとんどの車両個体はこの説明にそもそも該当しませんので、全く心配ご無用です。この記載はごく一部の稀な事例です。当店のように何十台も同じ作業を行っていますと、仮に1%の割合でも何ヶ月かに1回はそれに遭遇することになりますので、そのための対応ということです。

以上の説明を全て正しくご理解された上で、DCTキャリブレーションの実施をご希望される場合は、DCTオイル交換時に個別にご依頼いただければ、今後は有償にて承ります。また同様の理由で、メカトロニック作動油交換もレギュラーのサービスメニュー(Webshopのオプション選択)からは除外しましたので、こちらも上記をご理解の上でご希望の場合は個別にご依頼ください。

【乾式7速DSG/S-tronic】DSGオイル交換作業【ご来店専用】商品ページ

乾式7速DCTオイル交換は、多くのお客様から正しいご理解でご依頼いただき、施工させていただいて、大変ご満足いただいております。ありがとうございます。

以下の補足は、ごく一部、誤解に基づくご依頼がときどきありますため再掲しますが、この乾式7速DCTオイル交換は、既に故障しかかっているトランスミッションの調子を回復する魔法のような効果はありません。壊れかけた機械がオイル交換で直るわけがないのは当たり前のことで、故障は修理する以外には直りません。そして、上記に該当する故障は正規ディーラーにご相談いただくのが第一選択肢です。

とくに「たまにギアが入らない場合がある」「正常に発進できない場合がある」等の症状がある車両は、上記に該当する可能性が高いです。そうした症状を「もしかしたらオイル交換で改善するのではないか?」という淡い期待で、症状のことを当店に伝えずにDCTオイル交換をご依頼されたりすると、上記のとおり事態が複雑化するだけですので、そのような誤った目的感でのご利用はご遠慮ください。

乾式7速DCTオイル交換は、あくまで予防保全的なメンテナンスです。「機械油は必ず劣化する、劣化したオイルは交換すべき」という大原則に基づき、ギアのフリクションロスと摩耗を防ぐためのものです。つまり、正常な状態のトランスミッションを対象としたメンテナンスメニューです。くどいようですが、乾式DCTの不調はDCTオイル交換では改善しません。今後とも正しいご理解において、たくさんのご利用をお待ちしております。