maniacs 工房長 大谷です。先日ご紹介しました VW:504.00, 507.00認証オイルの比較(前編)に続きまして、その後編をお送りします。現在maniacsでは、VW:504.00, 507.00規格認証のエンジンオイルを、純正も含めて5種類、常時お取り扱いしています。昨今の世情により、エンジンオイル全般にこの2ヶ月間で複数回の価格改訂がありましたので、まずは2022年3月6日現在の、最新価格をご紹介します。

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・VW:504.00, 507.00純正オイル 0W-30    3,300円/L(税込)
・MOTUL Specific 504 00 507 00 5W-30   2,420円/L(税込)
・UNILOPAL OPALJET ENERGY3 5W-30 2,640円/L(税込)
・LIQUI MOLY TOPTEC 4200 5W-30   2,640円/L(税込)
・FUCHS GT1 TITAN PRO C-3 5W-30    2,640円/L(税込)

上記5種類は、maniacs STADIUMで0.5L刻みの量り売りが可能です。Webshop通販は、純正が1L缶入り、UNILOPAL、LIQUI MOLY、FUCHSの3種は5Lボトル(税込13,200円)で通販可能、MOTULは当店での通販不可です。価格につきましては、今年はこの先も頻繁に改訂される可能性が高いので、その点ご了承ください。

さて、前回ご紹介できなかったFUCHS GT1 TITAN PRO C-3 5W-30を社用車と工房長のA1で実際に使用してみましたので、その感想を含めてご紹介いたします。

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FUCHSは「フックス」と読み、ドイツの潤滑油メーカーです。石油元売系以外では世界最大の潤滑油メーカーで、各種車両用、産業機械用、航空宇宙用、工業用、切削加工用、プレス加工用、コーティング用、防錆用、その他特殊用途のニッチな(超高価な)オイルも含め、極めて幅広い分野に向けて、グローバルに、総合的に、オイルを供給しています。また自動車用途はOEM供給も多く行っており、VWからベストサプライヤー表彰も受けています。

FUCHSは、化学合成オイルが未だ存在しなかった1930年代、最も良質とされていたペンシルバニア産のオイルをドイツに輸入販売したのが事業の始まりです。創業後間もなくから様々な用途向けの油脂類販売に事業を広げ、その後困難な時代(戦争による輸入の停止など)を経て自社技術を磨いてきました。モータースポーツの黎明期にはエンジンオイル開発の場としてレースで多くの功績を残しましたが、現在は世界一の潤滑油メーカーらしく、よりアカデミックな技術開発へと移行しています。潤滑に関する幅広く奥深いテクノロジーが同社の最大の特徴です。

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FUCHS GT1 TITAN PRO C-3 5W-30の「TITAN」は、英語読みで「タイタン」またはギリシャ語読みで「ティターン」と読み、ギリシャ神話の巨人の名前です。チタン(Ti)系の添加剤とは無関係です。FUCHS独自のエンジンオイルの最新技術をXTLテクノロジーと呼び、これがGT1 TITANを特徴づけています。温度によらずオイルの粘度を安定させ、冷間始動直後から高速連続運転まで、条件によらずエンジン保護とフリクション軽減を高いレベルで両立します。コールドスタート性能、摩耗防止、燃費性能、腐食防止、オイル消費抑制、オイル劣化抑制、等の側面がとくに優れています。

実際に使用した感じは、同じドイツのリキモリと双璧をなす印象です。冷間始動の直後からエンジンが静かに滑らかに回転し、調子良く安定しています。暖機が済むとさらに滑らかになりますが、温度依存性が少ないので変化が少なく安心感があります。また、実用車のエンジン、少し古いエンジン、設計がイマイチのエンジン、調子がイマイチの個体等を、安定した調子に整えてくれるのも大きな特徴です。ガラガラ、ゴロゴロという回転感覚のあるエンジンも、このオイルで比較的調子良く回るようになります。

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摩耗防止と燃費性能はこのオイルの特徴で、エンジンがしっかり保護されている様子、燃費良くスムーズに稼働している様子は、回転の感触からもドライバーに伝わってきます。どちらかと言うと、高性能エンジンの高回転や最大出力などの性能の上限を引き出す方向のオイルではなく、エンジンの状態、環境、動作条件等によらずに常に調子良く回転させ、エンジンを保護して長期間に渡って性能を維持して快適に稼働させる、そういった方向のエンジンオイルです。

また、もうひとつの特徴として、静粛性と低振動の面で非常に優れていますが、油膜の厚さや回転の重厚さのようなプレミアムな感触というよりは、単純に稼働音と振動が小さくエンジンの存在感自体を希薄にするような感じです。ことさらに上質さを強調せず裏方に徹する印象で、粛々と仕事をこなすプロフェッショナルな質実剛健さを感じます。条件、環境、運転操作に左右されず「何も感じさせないことが最良」というニュアンスで、エンジンとオイルのことを忘れさせてくれます。

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っというわけで、同じ504規格のエンジンオイルを4社間で比較した今回の企画は、私自身が非常に興味深い結果が得られました。マニアックな感覚における微妙な差分ではありますが、正直こんなに差が分かる(感じられる)と思ってませんでした。フランスの2社、MOTULとUNIL OPALは感覚性能にも重きを置いている印象です。ドイツの2社、LIQUI MOLYとFUCHSは実用性能に重きを置いた質実剛健な印象です。以下、工房長の感想を簡単に総括しますと、

・MOTULは、滑らかで軽快な回転感覚が特徴で、ストレスなくスムーズに高回転まで吹け上がります。アクセル操作に対してレスポンス良く応えてくれるので、気持ち良く運転できます。スポーティな感覚を好む方、運転を積極的に楽しむ方に向いています。

・UNIL OPALは、もっちりとした油膜の厚みが感じられ、重厚なトルク感でしっかり回ります。振動や騒音が少なく、ワンランク上の高級車になったようなプレミアム感があります。上質な乗り味を好む方、ゆったりとした気分で運転したい方に向いています。

・LIQUI MOLYは、高性能エンジンをきちんと運転操作した際に、最高の性能を発揮させます。厳しい走行条件にも応え、エンジンをしっかり保護します。高速巡航やスポーツ走行での余裕を求める方、エンジンとの対話を楽しみながら運転したい方に向いています。

・FUCHSは、環境条件、運転条件、エンジン個体によらず安定した性能を発揮させ、調子を整え保護して維持します。エンジンは粛々と確実に仕事をこなします。余計な気掛かりを排除したい方、チョイ乗りも含めていつでも安心して同じ感覚で運転したい方に向いています。


フランス勢とドイツ勢はある意味対極的で、お国柄のステレオタイプがそのまま表れているような感じがとても面白いです。また、それぞれの中でも2社が互いに対極的な性格で、各メーカーのフィロソフィー(目指すところ)が製品に端的に反映されていることも興味深いです。メーカーの歴史や広報資料から受ける印象と実際の製品の使用感が見事に符合しています。さらに面白いと思ったのは、それがオイルのパッケージデザインから感じられる印象とも一致していることです。これはもう思わず「ふ〜む」とうなってしまう感慨です。たかがオイル、されどオイル。504規格準拠で基本的に同等性能のオイル同士の比較なので、メーカーの特色が浮き彫りになるのかもしれません。

そして、MOTULはmaniacsの販売実績で一番人気、LIQUI MOLYは当店の杉田ストアマネージャーのお気に入りかつイチオシです。熊澤チーフメカニックはUNIL OPALの上質感が好きとのことで、工房長はと言えばA3にはUNIL OPALが気持ち良く、A1のエンジンにはFUCHSが断然良いです。これも、うまい具合に票が四分された感じで、まるで予定調和かのように纏まりました。どれが良い悪いではなく、性能は同等ですし、本当に好みによるところです。ユーザーさまの平均値として、1年間で1万キロちょっと走って2〜3回オイル交換するのが一般的だと思いますので、お酒のテイスティングのような感覚でいろいろ試されるのも面白いかもしれません。