maniacs 工房長 大谷です。今日は純正互換のVW504.00,507.00規格認証のエンジンオイルの話をします(やや長文です)。

VW/Audi純正エンジンオイルは、当然ですがVW/Audiのエンジンに最適に設計されています。VW/Audiを始めとする欧州車のエンジンの特徴として、連続高速走行(例えばアウトバーンでの長距離移動)を実用上のものと捉えており、燃焼室がより高温になる前提で設計されています。また燃費効率のために冷却水の温度も日本車より少し高めに管理されています。それらの関係で、ピストンとシリンダー等、各部のクリアランスが日本車よりもやや広めに設計されていると言われています。

純正オイルは、そうしたエンジン設計を前提として、運転状況によらずに性能を総合的かつ最大限に発揮させ、エンジンが摩耗しないよう保護し、カーボンの付着やスラッジの発生を抑制し、補器類の性能低下を防止し、さらに静粛性や低振動などの快適性にも優れたエンジンオイルです。そして窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、粒子状物質(PM)等の排出ガス環境性能と、オイル自体のロングライフ性能も最高レベルに設計されています。

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この純正オイルの性能を規定しているのがVW:504.00, 507.00のエンジンオイル規格です。現在日本国内で正規販売されているVW/Audi純正オイルはSHELL石油のOEMで、つまりVW/AudiがSHELLにVW:504.00, 507.00のスペックを提示して作らせて純正採用しているオイル、ということになります。純正以外の市販のオイルメーカーの製品でも、この規格の認証を取得しているものは、純正オイルと同等の性能が担保されますので、純正オイル同様に安心して使用することができます。

VW:504.00, 507.00規格認証のエンジンオイルは、国際的な有名オイルブランド各社から商品化されており、maniacs STADIUMでは、MOTUL(フランス)、UNILOPAL(フランス)、LIQUI MOLY(ドイツ)、FUCHS(ドイツ)の4ブランドの504認証オイルを常時ストックし、0.5L刻みの量り売りで販売しています。504認証オイルを常時4種類、純正を含めると5種類も選べるショップは、かなり珍しいと自認しています。もしかしたら「5種類、常時ストック」は国内のショップで一番(唯一?)なんじゃないかと思います。

maniacs STADIUMでは504認証以外の高性能オイルも多数扱っていますが、今日は認証オイルの話に的を絞ります。上記5種類の価格(2022年1月現在)は、純正オイルが 3,300円/L。昨年から3回ほど価格改訂があって、少し高めのお値段になってしまいました。他の4ブランドは全部同じ値段で 2,420円/Lです。純正オイルのアドバンテージは、オイル粘度が0W-30で、他の4ブランドが5W-30なのに比較してワイドレンジです。寒冷環境でも始動性が良く、燃費面でもやや有利です。また、何といっても「純正」は絶大な安心感です。時代に左右されない安定した人気があり、純正オイルをご指定になるお客様はmaniacs STADIUMでも、とても多いです。

他の4ブランドは、純正オイルと同じ基本性能が保証されていますので、現在の価格ですと純正以外の4ブランドの方がコスパに優れると言えます。よって、コスパ重視のお客様には、純正以外の4ブランドが人気です。そうなると「4ブランドの中からどれを選ぶのが良いか?」という悩みが生じてきます。性能的には同等ですので、ブランドイメージで選んでも全く問題ないのですが、あえて詳述しますと、実際に使用したフィーリングはそれぞれで微妙に異なっています。以下、工房長の個人的な感想を含めて、説明します。

maniacs05まずは、これ。MOTUL Specific 504 00 507 00 5W-30です。MOTULの「Specific(スペシフィック)」シリーズはその名称からも分かる通り、欧州自動車メーカー各社の認証規格をパスした商品群です。上記の他には、ボルボ、フォード、メルセデス、ポルシェ等それぞれのアプルーバル(認証)オイルがあります。これは、そのシリーズ中の、VW/Audi認証のオイルになります。

MOTULは世界で初めてエステル系の化学合成油を実用化したメーカーで、エステル系ベースオイルの技術に優れています。このベースオイルが、レーシングエンジン用オイルに通じる高性能の基本を支えています。MOTUL社の各商品は、そのエステル系ベースオイルを中心として、各用途に応じた最高の性能を発揮するよう、100%化学合成の最適なブレンドで構成されています。

MOTULはモータースポーツの世界で技術開発を行い、その専門技術を一般商品にもフィードバックしています。300V(同社のフラッグシップ商品名)に代表されるように、パフォーマンスに対する強い拘りで商品を開発しています。スペシフィックにおいても、各自動車メーカー向けの認証オイルをそれぞれ専用に商品化しているのはMOTULの特徴で、メーカーごとのエンジンや要求スペックに最適化する、きめ細かな開発姿勢が窺えます。モータースポーツでの多くの実績によりブランド認知度が高く、名実ともに高性能なイメージから、maniacsでの販売実績はこれが一番人気です。

実際に使用した感触は、そうした裏付けから印象する通りのもので、エンジン回転の軽快さ、吹け上がりの滑らかさが最大の特徴です。オイルの粘性抵抗や攪拌抵抗が少なく感じられ、回転域やスロットル開度によらず常に軽やか、車がストレスなく前へ前へと進んでいくイメージです。反面、油膜の厚み感や、もっちりしたクッション性はやや希薄で、エンジン保護も主に低摩擦(スムーズネス)によっている印象です。エンジンの機械音(メカニカルノイズ)や微振動を、ドライビングのインフォメーションとしてある程度ドライバーに伝えてきますので、全体として非常にスポーティなフィーリングのエンジンオイルです。

maniacs04つぎは、こちら。UNILOPAL OPALJET ENERGY3 5W-30 ACEA C3です。UNILOPALは「ユニルオパール」と読みます。石油系ブランドではなく、もともと潤滑油専門メーカーとしてスタートしており、長年の実績に裏付けられた信頼感があります。フランス国内のエンジンオイルのアフターマーケットではMOTULを抑えてシェアNo.1のブランドです。

潤滑油専門メーカなので、化学合成のベースオイルと添加剤の両面に優れた技術があり、それらをブレンドする高度なノウハウがあります。熱安定性、酸化安定性、清浄分散性に優れた、実用的な高性能オイルを得意としています。UNILOPALはレースのスポンサーをしておらず、イメージ戦略でなく商品自体で勝負する企業姿勢をとっています。そしてそれがユーザーから高く評価されていることは、フランス国内でのシェアが示す通りです。

そのエンジンオイルは、競技用途のピンポイントの高性能よりも、オイル本来の品質と基本性能、街乗り〜ハイウェイ等の実用域でのパフォーマンスに重きを置いて開発されています。このENAERGY3の品質表示には「ベースオイル:PAO+エステル」と成分まで明記されており(←100%化学合成という以上の詳細な成分を表示するのは珍しい)、非常にコストの掛った本物の高級オイルであることが明確に分かるとともに、同社の基本品質に対する拘りと自信が見て取れます。

実際に使用した感触は、ある意味MOTULと双璧をなします。油膜の厚みが感じられ、もっちりとしたクッション性があります。メカニカルノイズと微振動が少なく、エンジンは粛々とスムーズに回転します。軽快さよりは重厚さ、吹け上がりの鋭さよりはトルクの分厚さが優先する印象です。運転条件に左右されない安心感があり、ワンランク上の高級車になったようなプレミアム感があります。エンジン各部が摩耗からしっかり保護されている様子も伝わってきて、全体として非常に上質なフィーリングのエンジンオイルです。ちなみに、工房長は今回紹介する3種類の中ではこれが一番の好みです。

maniacs03三つ目は、これ。LIQUI MOLY TOPTEC 4200 5W-30 です。LIQUI MOLYは「リキモリ」と読み、ドイツの潤滑油メーカーです。社名の由来(リキッド+モリブデン)でもある、固体潤滑剤の二流化モリブデンを液状化してエンジンオイルに添加する、その製造特許が創業の基礎をなしています。モリブデン系の添加剤は、現在では優れた標準技術として世界中で使用されています。

リキモリはドイツメーカーらしい質実剛健、頑固一徹な印象があります。リキモリのオイルと添加剤は、その品質に拘って、今でも一貫してドイツ国内で生産されています。モータースポーツにも密接に関わり、限界領域を含めた最高性能を追求しています。モリブデンの焼き付き防止性能に象徴されるように、一般向けエンジンオイルにおいても、高負荷時の性能に対する拘りが感じられます。TOPTEC 4200は、ひとつの商品でVW/Audi、BMW、メルセデス、ポルシェの認証を受け、APIでもSP規格を取得、全方位に隙がなく、要求スペックに対して性能の余裕があることが分かります。アウトバーンを有するドイツのオイルメーカーならではの、高いレンジでの実用性能を体現しています。

実際に使用した感触は、例えて言えば、MOTULの軽快さとUNILOPALの上質さを併せ持つような、総合的な高性能が感じられます。燃焼トルクの粒立ちを程好くインフォメーションしつつ、余分なメカノイズや振動は上手く消しており、ゆっくり走れば上質、踏み込めばスポーティ、全回転域でスロットル微開から全開まで気持ち良く走れます。そして、走行負荷が厳しくなるほど本領を発揮するような印象です。ただし、性能を発揮するのは暖機が済んでエンジン温度が定常状態に達してからで、冷間始動直後はエンジンの不機嫌さをそのまま伝えてくるような素っ気なさもあります。質実剛健、頑固一徹で、ずぼらな扱いに対する許容度は少な目、高性能ですがドライバーに媚びるスタンスはありません。

従って、チョイ乗りの多い方や、通勤用途で出発から20分くらいで到着してしまうような方には、やや不向きです。逆に、高速長距離移動の多い方や、グランドツーリングを楽しむ方には最高のチョイスとなります。またエンジンの機嫌を素直に伝えてくるので、冷えたエンジンのスロットルを深く踏み込んだり高回転まで引っ張ってしまうことを無意識に予防でき、エンジンとの対話を楽しみながら丁寧に乗りたい人にも向いています。ちなみに、当店ストアマネージャーの杉田氏はこのオイルを好んで使っています。

maniacs06最後は、FUCHS GT1 TITAN PRO C-3 5W-30ですが、じつは残念ながら工房長は、自身の愛車でこのオイルを使用したことが、まだありません。なので、次回の交換時にこれを使ってみてから、説明と感想を書こうと思っています。

っというわけで、今回はVW504.00,507.00規格認証のオイルのうち、3種類の特徴を説明してみました。基本性能はどれも最高レベルの要求値を満たしていて、安心してお使いいただけるのは勿論です。感覚性能でも、実際にはそんなに大きな差があるわけではありません。上記は「あえて違いを強調すれば」ということで書いていますので、その前提でご参考にしていただければと思います。

またmaniacs Webshopの通販では、これまで上記4種の中でLYQUI MOLY  のみを販売していましたが、UNILOPALとFUCHSも通販を開始しますので、遠方のオーナー様も是非ご利用ください。MOTULは輸入元の意向で、当店でネット通販ができないのですが、MOTUL製品は全国のディーラー、整備工場、チューニングショップ等でも比較的多く取扱いがあるはずですので、とくにご不便ないかと存じます。また、純正エンジンオイルの絶大な安心感は他に替え難い面がありますので、そちらも従来どおり引き続きご利用ください。

<後編につづく>