maniacs 工房長 大谷です。先日、Golf7/7.5用MCBの雑誌取材があり、アイシン精機さんの開発メンバーと私も同席させていただきました。あいにくリモートでの同席となりましたが、久しぶりにお話しができて、私自身とても楽しい時間が持てました。一流の技術者とのお話は、本当にインスパイアされます。

実測データと内部構造も開示して、何故どのように効くのかをきちんと説明して販売するというアイシン精機さんのスタンスは、あらためて感銘を受けるとともにmaniacsも深く共感するところです。

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私の技術説明:前編で「ディスクスプリングについては別の機会に」と宿題に残した部分を中心に、この取材でアイシン精機さんの開発メンバーからお聞きしたお話も含めてご紹介します。また、今回なんとMCBの貴重なカットモデルを借用できました。しばらくお借りできるとのことで、現在maniacs STADIUMに展示してあります。

装着する/しないの観点でなくても、知的好奇心がグイグイと刺激されます。この種のメカニカルパーツがお好きな方には見応えあると思います。ご興味の方はぜひmaniacs STADIUMにお越しください。私は1時間以上もこれを眺めて感慨にふけりました。見れば見るほど美しく見えるので、何がどう美しいのかも、以下に余すところなくご説明して参ります。

(凄い長文になったので、途中で読むのが面倒になった場合はスクロールして飛ばして、最後の動画を見てください)

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さて、MCBは「アイシン精機独自の内部構造」とmaniacsで説明していますが、これは決して耳心地の良いだけの表現ではなく、具体性とリアルなストーリーがあります。

「ディスクスプリング」は別名「ダイヤフラムスプリング」、日本語で「皿バネ」と言います。自動車の、サスペンション等の目につく個所にはあまり見かけませんが、オートマチックトランスミッション、クラッチ、トルクカップリング、LSD等の内部に使われる「要」の部品です。アイシンと言えば自動車用トランスミッションのNo.1ブランドかつNo.1サプライヤーで「ディスクスプリング」はアイシンがもともと要素技術として高次元に活用してきたパーツです。

写真右寄り、黒い円盤が幾重にも重なっているのが、ディスクスプリングです。コイルスプリングに比較して、ディスクスプリングの特徴として、コンパクトに、短いストロークで極めて高いスプリングレートを発揮できる点があります。ボディ変形はMCBの装着部位(両端の間隔)においてストローク量(変形量)が高々1mm程度で、変形に関わる力は1000N〜数千Nという大きな力です。これを現実的なサイズのコイルスプリングで受け止めることは不可能で、まさにディスクスプリングがうってつけです。

アイシンにとってディスクスプリングは一朝一夕の技術ではありませんし、外部からモノだけ買って来て使っているのでもありません。MCBの開発は「ボディの変形と振動を抑制する」というニーズの側面と「要素技術のディスクスプリングを活用する」というシーズ側からの発想が交わったことで、初めて結実しました。他社からは生まれ得ない、まさに「アイシン独自の」と言える着想であり、その結果の製品なのです。


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MCBのもうひとつ大きな特徴が、写真左寄りの白い樹脂部品「フリクションダンパー」です。これもトランスミッション内部に用いられる要素技術のひとつです。フリクションダンパーはストローク速度0からダンピングを発揮する超ワイドレンジがメリットですが、じつはそれと引き換えに、中立位置に自己復帰させるのには大きな力が必要です。オイルダンパーなら弱いコイルスプリングで容易にセンタリングできますが、フリクションダンパーはディスクスプリングの1000Nを超える復元力があってこそ初めて適用可能であり、それがなければMCBに適用できなかった技術なのです。

そして、フリクションスライダーを押し付ける力も、ダンピング特性を高めるにはディスクスプリングが不可欠です(白い部品の上に重なっている黒い円盤)。「ディスクスプリング」と「フリクションダンパー」はまさに切っても切れない仲であり、その使いこなしの難しいところを互いに補い合い、美点を組み合わせて相乗効果を生んだことがMCBの最大の特徴です。そしてそれが、車両に装着した際の操縦性能や乗り心地の源になっているのです。

MCBは、それらの固有技術をもっていたアイシン精機だからこそなし得た、まさに「独自の内部構造」です。単なる日本語表現でないことが、このカットモデルから視覚的にご理解いただけると思います。

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参考用に、MCBを実測した「ヒステリシス曲線」を掲載しておきます。ダンパーの減衰効果とスプリングの復元力をバランスよく組み合わせて、バラバラではない一つの特性として統合していることが読みとれます。この独自の特性によって剛性感を高めながら乗り心地をしなやかにする、という通常であれば相容れない改善効果を両立しているのです。(専門的になりすぎるのでヒステリシス曲線の細かい解説は割愛します。疑問点等あればmaniacs大谷までメールください)

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カットモデルから学べることは他にも多くあります。例えば、製品外観だけを見ると無骨にも見える本体ボディ。アルミ無垢材からの削り出しで作られており「ここまで必要?」と感じるほどです。なぜ、こんなに頑固な作りなのか?これもディスクスプリングとフリクションダンパーを確実に作動させるための必然性なのです。

ディスクスプリングは1000Nを超える力でセルフセンタリングを行うため、高精度かつ高強度に組み付けられており、スラスト方向の力を受け止めるだけでも一般的ダンパー(スチールパイプ製)より高いケース剛性が必要です。しかしここまで頑丈な作りになっている主な理由は、やはりフリクションダンパーの方です。作動軸に対して垂直方向に強い力でフリクションスライダーを押しつける構造で、安定した動作を可能とするには、オイルダンパーとは比較にならない高剛性の外筒が必須なのです。

また、フリクションダンパーの特徴として内部が完全なドライメカニズムのため、対流や撹拌による熱分散ができません。車両のボディ振動を抑える際にMCBが吸収した振動エネルギーは、フリクションスライダーの局所で熱エネルギーに変換されます。高速走行、スポーツ走行等で安定した動作を得るためには、この局所的な熱を素早く拡散させて外部に放熱しなければなりません。そのために熱伝導性の優れた、アルミ無垢材からの削り出しで、肉厚な(カットモデルの赤色部分)外筒ボディを構成してあるのです。

一見して無骨に見える外観ですが、カットモデルを見れば妥協のない開発姿勢が伝わってきます。決して無意味にコストを掛けているのではなく、必要に応じて必要な技術と材料を投入する、無駄のない機能美です。そしてこの開発思想は、膨大な走行試験とデータ収集によって裏打ちされています。アイシン精機の想定するMCBの耐用期間は15年、20万キロです。耐用期間を数値化すること自体、要素技術に関する高度な経験と実績があって初めて可能なことです。自動車メーカー向けに重要部品を供給しているアイシンブランドならではです。

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ではMCBを車両に装着した際にどのような効果を生むのか、前回ご紹介しきれなかったグラフや図解も掲載しつつ、ご説明します。

ボディ変形は、通常の走行で「ボディが変形しっ放し」ということは起こらず、遅かれ早かれ必ずもとの中立状態に戻ります。変形したり戻ったりを繰り返すという意味で、ボディの「変形」はすべからく振動性の変形です。以下振動性の変形を「振動」と書きます(ゆっくりの変形も含まれます)。以下で「振動」とは、ボディが単に揺れる意味ではなく、ボディが変形したり戻ったりする意味ですので、その用語定義で読んでください。

さてそのボディ振動は、周波数領域ごとに性質が異なるため、全部を一括りにはできません。ボディ振動の周波数とドライバーの「感じ方」の関係はある程度一般化でき、共有し易い擬態語で表わすと、ボディがブルブルと震える感じは周波数で8〜32Hz、ゴツゴツ感とかビリビリする振動は16Hz〜64Hz、路面の継ぎ目なのどでガタピシする感じは32Hz〜64Hzくらいの振動です。ドライバーはいちいち数値で感じ取っていませんが、確実に違いを認識しています。これらの領域の振動を抑制することで、乗り心地が改善し、乗り味が上質になります。

グラフで左方にずっと離れた0.5Hz以下の遅い振動は、つまり変形のピークまでに1秒以上もかかるゆっくりした変形という意味です。この0.5Hz以下の領域は操縦安定性やハンドリングに関係する領域です。例えば、前編で説明した120km/hで急ハンドルを切ったレーンチェンジのボディ変形ストローク速度は、実測で0.2Hz(0.07mm/s)付近です。この周波数領域をあえて擬態語で表現すれば、ナヨナヨとかヨレヨレという感じ、またはステアリング操作に対するフラフラ、グラッみたいな感じに近いと思います。

この極めてゆっくりな振動(変形)に対しても確実にダンピングを発揮できるのが、カットモデルの白い部品、つまりフリクションダンパーなのです。これにより、ボディはじわりと抑制の効いた変形をするようになり、無用なオーバーシュートが無くハンドリングはスッキリした応答になります。つまりナヨナヨする感じがなくなるわけです。上のグラフは、MCBが超ワイドレンジなダンピング特性を持つことを示しています。8Hzを超えるブルブル、ガタピシの領域はオイル式等でもダンピングが可能ですが、0.5Hz以下で十分なダンピングを発揮できるのはフリクションダンパーだけです。

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挙動安定の効果は、前編でご紹介したレーンチェンジ以外に、「Jターン」のテスト走行でも確認しているのでご紹介します(データは国産車)。定速80km/hの直進で侵入し、決められた通過点でステアリングを一気に左90°に操舵します。車両のコンソール中央にロール角速度センサを固定して実測した結果が上のグラフです。ノーマルの車両はロール角のオーバーシュート、アンダーシュート、いわゆる「揺り返し」があり、収束まで約2秒を要していますが、MCB装着車ではそれがほぼ無くなっています。

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複数の実測データから、オーバーシュート、アンダーシュートの成分を数値で抜き出しますと、ピークトゥピークで振れ幅は半減以下になります。測定値で半減以下というのは、極めて顕著な改善です。ドライバーの感覚は、ロール角の絶対値(この場合の4.2°)よりも、揺れ過ぎ、揺り返しの0.2°の方をグラッとくる不安定さとして不快に感じるので、それが半減することで素直な運転感覚とスッキリした乗り味に感じるのです。

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さて、ここまでにご紹介した走行試験は、前編の乗り心地テストを除いて 80km/h〜120km/hの比較的高速域でのテストでした。低速での走行テストも種々行われており、その中から「連続段差乗り越しテスト」の結果をご紹介します。こちらもグラフは実測データです(データは国産車)。試験時の車速は8km/h、かなりの低速です。3つの段差の間隔は1.5mで、車両の揺れがちょうど段差のリズムに同期して反復増幅される車速を選んでいます。グラフにもそのことが良く現れていて、複数の段差を超える度に縦揺れが増しています。

この揺れは、ほぼ段差自体の高さ+サスペンションのストロークなので、グラフはボディの変形を示すものではありません。しかしサスペンションの大きな入力で当然ボディも変形しており、MCBはその変形を抑制、変形エネルギーを吸収します。その結果、サスペンションの揺れのピークが僅かに低く丸くなっています。この改善効果がグラフ上で見て取れるのはじつは凄いことで、MCBは足回りのダンパーではないにも拘らず、ボディの変形を抑制することで結果的にサスペンションの無駄な動きを抑制できている、ということが分かるのです。

注目すべきは、前輪が最後の段差を越えて平坦路に進んだところで、より顕著な違いが表れています。この区間での「揺れの残り」はMCB装着でピークが抑えられ、位相も早められており、揺れの収束に寄与していることが分かります。このテストではデータ測定のために15cmという大きな段差を用いていますが、実際の走行では路面の継ぎ目や車庫から出る際の小さな段差でも、同じ効果をハッキリ体感できます。グラフでは僅かの差に見えますがドライバーの感覚はとても繊細です。MCBはゆっくり走っても十分に効果を体感できるボディパーツです。

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最後に、MCBの装着で何故ハンドリングが良くなり、乗り心地も良くなるのかというのを、別の走行試験結果でご説明します(データは国産車)。やや工学的な解説になるので、お好きでない方は下の動画まで飛ばしてください。このテストでは、マルチリンク式リアサスペンションの2つのアーム(トレーリングアーム、ラテラルアーム)にGセンサーを装着して、60km/hでスラローム走行を行っています。2つのアームのGセンサーの値の差分を取ることで、間接的に後輪の角加速度を見ることができます。つまりスラロームで後輪の向きがどう変化するかを見ているわけです。

マルチリンク式のリアサスペンションは、ほぼ例外なく、旋回時に外輪がトーイン、内輪がトーアウト方向に向くようになっています。これは、前輪の操舵で車体が旋回方向に向く際に、後輪は車体以上に積極的に旋回方向に向くようなジオメトリーが与えられているためです。この後輪の積極的トー変化を生み出すのは、各アームのレイアウトによる機構学的なバンプステア(ロールステア)と、アーム取付部のゴムブッシュの変形によるコンプライアンスステアの、2つの複合作用によります。ゴムブッシュは、単に路面振動を吸収するための部品ではなく、旋回Gや加減速Gを受けた際には狙った方向にブッシュが潰れ、アームの支点位置(つまり実効長)が積極的に変化することも、ジオメトリーの重要な要素として車両設計に折り込まれているのです。

さて走行中のボディは上下、前後、左右、捻じれ、部位別など、複雑な振動(変形)をします。ボディが振動した際、ホイールはどう動くでしょう? タイヤはどう動くでしょう? ・・・ボディが振動してもタイヤの接地面はボディと同じようには振動できません。なぜなら路面(=地球)をグリップしているからです。ホイールも、その接地しているタイヤに嵌まっています。そのため、ボディ振動の大部分は、サスペンション取付部のゴムブッシュが吸収し、残りの一部はホイールまで伝達してホイールを僅かに振動させ、そのホイールの振動はタイヤのサイドウォールに吸収され、タイヤ接地面は概ね路面をグリップしてボディ振動には同調せずに転がり続けています。

ボディ振動のストローク(ボディ各部の中立位置からの変形による変位)は1mm〜高々数mm程度と思われますが、サスペンション取付部のゴムブッシュが吸収できる変位、すなわちブッシュが潰れることのできる量もやはり1mm〜数mm程度です。つまり、ボディが振動すると、その振動に同調できないホイールとの間で、サスペンション取付部のゴムブブッシュのストローク(=潰れしろ)を使ってしまうのです。もともと僅かしかない貴重なゴムブッシュのストロークの、かなりの部分をボディ振動を受け流すために浪費している、と言えます。

本来ゴムブッシュは、旋回Gが掛った際には設計で意図したように潰れ、ジオメトリーに従ってリアホイールのトーが変化(コンプライアンスステア)すべきところ、ボディ振動がゴムブッシュのストロークを食ってしまっているために、所期のとおりに各サスペンションアームが動かない、という結果になります。グラフはそれを如実に表しています。MCB無しのグラフは、リアホイールのトー変化にノイズ成分が被ってしまって、結果、ステア操作に同調するサイン波の成分は小さく委縮し、波形は汚く変形し、波形の対称性、反復性も薄れています。このノイズ成分は他ならぬボディ振動によるものです。技術用語で言うとS/N比(シグナルとノイズの比)が悪い状態です。

対してMCBを装着した車両では、ノイズ成分が抑制されているおかげで、ステア操作に同調するサイン波が綺麗に見て取れます。サイン波成分のピークトゥピークも大きくなっていることが分かります。これは、ボディの振動が減ったお陰で、設計意図どおりにリアホイールの向きが変化していることを意味ます。トーが綺麗にインに向くとボディ自体も素直に追従し、その結果リアホイールもさらに素直にインに向かう、という好循環(相乗効果)になります。MCBはサスペンションのゴムブッシュの無駄な仕事をなくすので、ゴムブッシュが設計意図どおりの仕事に専念できます。結果として4輪全てが本来の仕事をして、車の動きは素直になり、旋回性が向上するのです。測定結果にそれが顕著に表れています(S/N比が大幅に改善しています)。

乗り心地も全く同様で、ゴムブッシュは本来路面からの振動をボディに伝えないためのものですが、ボディが振動するとゴムブッシュのキャパシティーが失われた状態になります。MCBでボディの振動を抑制すると、ゴムブッシュ本来のキャパシティを路面振動の吸収、つまり乗り心地に活かすことができます。その結果、ゴムブッシュの硬さは同じままなのに、あたかもブッシュの柔軟性を増したような効果が生まれるのです。どこも何も柔らかくしていないのに、現実に乗り心地がソフトになったと体感するのは、主にはそのためです。(MCBでボディ剛性が増してサスのバネとダンパーを動き易くする効果も当然ありますが、主にはブッシュ類の無駄な仕事をなくすることによる効果が大です)

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以上説明のとおり、MCBは「ボディの振動(変形)が減少する」という直接的な体感に加えて、足回りが設計意図どおりに仕事をする「二次的改善効果」が相乗します。「車体の剛性感と、しなやかな乗り心地」「シャープでスポーティなハンドリングと、素直で滑らかな反応」のような相反する要素を両立でき、誰にでも一乗瞭然の分かり易い体感効果が得られるのはそのためです。「車のパフォーマンスを最大限に引き出す」というセリフは聞き飽きた感もありますが、MCBに限っては間違いなく本当と断言できます。

そしてさらに、この考察と実際の体感効果から類推すれば、車両の経年劣化、いわゆる「ヤレ」の抑制も期待できるのです。ボディ各部や、足回りのゴムブッシュ等の負担(仕事量)が確実に減少するからです。車両の新しいうちから装着することで、新車時の車体性能を劣化させずに長期間維持できます。MCBは愛車を長く大切に乗り続けたいオーナーさまにも、自信をもってお奨めするパーツなのです。

書き始めたら、ついつい止まらなくなって、長く書き過ぎました。以下のアイシンの動画は実に良くできていて、私の小難しい(難解な?)説明と同じことを、ビジュアルに感覚で捉えられます。工学的解説と矛盾のないビジュアル表現で、誇張や比喩は最小限。プロフェッショナルな目で見ても忠実度の高いプロモーション動画だと思います。上の説明を読んだ上で動画を見ていただけると、尚のこと腑に落ちると思いますので、是非ごらんください。

公式動画













商品が思った以上のご注文で、品切れしてしまってご不便をお掛けしますが、今週末には入荷する予定です。もう少々お待ち下さい。