工房長です。今日は完全に漫談です。思いつくままの纏まりのない長文で、まぁ最後まで読む人が誰もいなくても良いかなという勢いで書きます。このところ、各方面から「除菌、殺菌」の商品の紹介が多くあります。「店舗にどうですか?」とか「カーインテリア用で取り扱いませんか?」とか。購入(仕入れ)のロット条件は何ダースとか、段ボール何箱とかです。そして、内容はかなり怪しいものが多いです(苦笑)。

僕は化学の専門ではありませんが、一応は理工系のはしくれで、中身の分からないのものは信用しないし、まして自店の販売商品としては扱いません。除菌とか殺菌で持ち込まれるものは、アルコール系ならまだしも良心的。それらが入手難なので、塩素系のものも多いです。「次亜塩素酸」とか調べると確かにウィルスにも効くらしいのですが、塩素臭がけっこうあり、平時だったら人体や身の回りにはあまり使いません。

maniacsでは建屋(手すり、ドアノブなど)の消毒、車両の消毒にはイソプロピルアルコール(IPA)を使用しています。エタノールは入手難ですがIPAは普通に入手でき、もともとピットで常備し脱脂剤として使っているからです。ちなみに3M製の個装商品「PACクリーナー」も主成分はIPAです。昔は小学校の一斉予防接種のとき、クラス毎に保健室に列を作って、流れ作業のように二の腕に透明液のスーッとする脱脂綿を当ててから、茶色い脱脂綿を当てました。あの透明の脱脂綿がIPA(70~80%に希釈したもの)です。なので嗅ぐと懐かしい臭いがします。ちなみに茶色はおそらく注射を打つ位置の目印でヨードチンキだと思います。今は注射部位の消毒液はIPAとエタノール混合のものが多く使われているようです。

アルコールは揮発が速いので殺菌し終わる前に揮発してしまう可能性があります。100%原液よりも水で多少希釈した方が効果が高いと言われるのはそのためで、しかし薄め過ぎると殺菌力も弱まるので希釈度合いは良い塩梅にする必要があります。IPAの殺菌消毒効果はエタノールにほぼ類似しますが、揮発はエタノール以上に速いです。なので、手すりやドアノブを除菌するにも少し念入りに拭く必要があります。分かっていて使えば、十分に用を足します。

さて、除菌、抗菌とか消臭、脱臭の目的で「車の内装用に使えるもの」となるとさらに難しいです。まず、アルコール系はファブリックや樹脂、革などを侵すリスクがあります。IPAは拭き取り用くらいなら問題ないですが、一部の樹脂や塗装を膨潤させるので、吹きかける使い方はできません。また揮発した成分を大量に吸い込むのも駄目です。市販のスプレー式エアコン消臭剤もアルコール系のものが多いですが、アルコールは現在そこにある菌は殺しますが、そのときだけの効果です。揮発したら、それでおしまい。後日に及ぶ抗菌力はゼロです。

ファブリックの除菌消臭と言えば、世間で一番有名なのは「ファブリーズ」です。ファブリーズは用途別に分化、進化していますし、固有の商品名を悪く書くのはやや問題がありますが、試しにガラス面に吹き付けて乾かす評価を行うと、少しべたつく成分が残留します。調べてみると、べたつきの原因はおそらくトウモロコシ由来と書かれている脱臭成分(シクロデキストリンという糖類)だと思われます。商品性として消臭効果をしばらく持続させる必要があるので(すぐにまた臭ったら効かないと言われてしまう)、要は瞬間脱臭ではなく脱臭剤を残留させる必要があるのでしょう。

一方で、ファブリーズの殺菌成分は「第四級アンモニウムカチオン」という成分です(具体的には「塩化ベンザルコニウム」のようです)。これは当座そこに居る菌は殺しますが、繊維の上などでは早期に無効化すると思われます。なぜ、すぐに無効化する殺菌剤を使っているのか? 穿った見方と申しますか、下衆の勘ぐりですが、効果があまり長く持続してしまうと商品がリピートで売れないので、たぶん、除菌も消臭も1~3日くらい効果が持続して、そして無効化するのが商品性としては一番良いのではないかと思います。抗菌効果は早目に無効化するのに、べたつきは残る、僕が噴霧式のファブリーズを車に使用しない理由です。今売られている「車用」のものは改善されているかもしれませんが、少なくとも僕自身は家庭用のファブリーズを車の内装には使いません。

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工房長的には、消臭剤に関しては「3M 瞬間消臭スプレー」の一点推しです。実際に使用すると、本当に瞬時に臭いが消えてなくなるのを体感できます。値段が高いとのレビューもありますが、缶の見た目から想像するより遥かに使い出があり、意外とコスパも良いです。有効成分は「安定化二酸化塩素」で、上述の「次亜塩素酸」と名称が似ていますが全く別もの。噴霧しても塩素臭はほぼゼロです。このスプレーは、その場にある臭気を消すだけで、何の香りも付加せず、成分は全て揮発して何も残留しません。

3M 瞬間消臭スプレーは除菌効果も空間除菌がメインです。ファブリックなどに直接掛けて消毒することもできますが、消毒は主たる用途ではないです。従って、臭いの元(カビや雑菌など)が何かあるときは、また時間が経てば再び匂います。成分が残留しないので、それは当然と言えます。臭いの元がある状態のままで消臭効果を持続させるには、脱臭性(臭いを吸着するもの)の物質を残留させるしかないので、つまり必然的にベタベタとか、粉々とかになることです。噴霧式で、ファブリックに悪影響せずに持続的消臭というのは、そもそも無理なのです。

3M 瞬間消臭スプレーは、持続脱臭効果はなく、抗菌、防カビ効果もないです。最初からそのように設計された商品です。「瞬間消臭」の単機能に特化しているところが、いかもにプロ仕様という感じで、工房長はこれオンリーで愛用しています。

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ではファブリックの「臭いの元」に対処するには、どうすれば良いか。いろいろ探しまくっていたら、先日ついに良いものを見つけました。アルコール系でもなく、次亜塩素酸でもない、第四級アンモニウムカチオンでもない殺菌剤です。「抗菌加工」と謳われる商品に工場レベルで施工する際にも用いられる成分で、病院でベッドやシーツ、カーテンや壁紙などの抗菌に用いられています。繊維に吹きかけて乾燥した状態で、半年から1年くらいの抗菌効果があります。

主成分は、抗菌作用のピグアナイド系薬剤と、防カビ(=抗真菌)作用のジヨードメチルパラトリルスルホンという2つを組み合わせており、車室内に発生し易い菌やカビに広い抗菌スペクトルを示します。併せて、インフルエンザウィルスの無効化、ダニ等の害虫の忌避効果も発揮するという優れものです。安全性が高く、人体(肌など)に直接使用しても問題ないばかりか、傷口の消毒にも使えて、雑菌(真菌を含む)が関与する諸症状に治癒効果も発揮します。それが主目的の製品ではないですが、そのくらい安全で有効だということです。もともと病院内の日和見感染防止のために開発された抗菌剤なので、うなづけます。

取り扱い店向けとして48ページにおよぶ技術資料を頂戴し、その末尾には「制菌対応表」として約700種類に及ぶ具体的な菌の名称(笑)とそれが発生しやすい場所が一覧になっています。まさにこれは本物、プロ仕様です。「新型コロナ」とか一言も書いてないところが、信用できます。今そのウィルスを入手して評価なんかできるわけありませんので。

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そして、工房長が何よりも気に入ったのは、消臭成分も脱臭成分も全く含まないという潔さです。臭いを消すのではなく、原因となる菌を排除する。これぞ、プロ仕様!実際に使用すると、噴霧してから臭いがなくなるまで数日かかります。たぶん菌が死んでるんでしょう。これ、車用に少しアレンジすれば、新車にもオーナー自身で施工できる他に類のない抗菌コート剤になり得ます。現在工房長がいろんなところに実際に使って評価中です。自宅のお風呂とか。自分の靴とか(笑)。キッチンにも使用できます。凄い良いです。本当に凄い良い(詳細はまた機会があればご紹介します)。

ただ問題はですね、一見して水みたいだし、噴霧しても水みたいで。薬液自体は全くの無臭だし、消臭も脱臭もしないので、噴霧して効いてる感じが分からないことですね。例えば新車に噴霧施工したとして、何も起きないことが最も良いわけです。噴霧しなかったら半年後に少し雑菌とかカビの臭いがし始めるのが、本当に何も起きない。新車のときと同じまま。いかにも「効いてる感」が・・・ないですね、何も起きないので(笑)。ものすごく良い製品に違いないですが、極めてプロ仕様なので素人向けにキャッチーではない。

これ、どのように商品化して、どのように宣伝して売るのかが、いちばん難しいところです。

(工房長は化学とか細菌学は専門でなく、調べて理解して試して書いていることが殆どで、つまり記述内容に誤りがあるかもしれません。ご専門の方、誤りを見つけましたら是非メール等でご指摘いただければ幸甚です)