工房長です。前回Audi用maniacsパドルエクステンション開発記(4)で製品の設計をほぼ確定したところまでまでを解説しました。そしてNC切削で最終確認のための二次試作を行いました。その試作品が上がってきましたので、早速確認作業です。

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試作品の出来栄えは、思った以上に素晴らしいです。設計の精度も、試作の精度も良くできていて、2つのパーツ同志の嵌め合わせの感触は思惑通りにピッタリでした。嵌め合わせた状態の外観や細部の納まりも、ピシッとした精度感に溢れています。ステアリングに装着した際のマッチングやフィット感も、一次試作のときの感じを大幅に上回っていて、製品らしい仕上がりになっています。操作性や手指の感触などの機能も、完璧と思えるレベルに向上しています。

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二次試作から製品版への調整項目は、各部のR(角の丸め)の微調整くらいです。Rについては、やはりCADの画面上でなくて、実際に立体の現物で印象や感触を確認しながら決める必要があります。こういう部分を妥協なく詰めることで、製品になった際の高級感とか完成度のようなものが作り込まれます。このRをCADデータに反映して、これで形状は100%完全に確定です(っとこのときは思ったのですが・・・)。そしていよいよ量産化に向けてモールド成形の検討を行います。右の図はインサートの押さえとジェクトピンの検討です。

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イジェクトピンというのは、プラスチック成型品を金型から取り出す際に、型から突き出すピンのことです。よくプラスチック製品の裏面に丸い跡がありますが、あれがイジェクトピンの跡です。この製品は、装着面以外は両面が外観面になり、外観面にはイジェクトピンを配置できないので、金型構造に工夫が要ります。またインサートする金属板を固定する構造も重要です。金型の構造次第で製造品質が決まってきますので、金型メーカと何度も打ち合わせを行って詳細までしっかり詰めました。

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金型検討を進める中で製品形状に微調整を加えた項目もあります。これは一例ですが、金型を割って開く境目のラインを「パーティングライン」と言います。パーティングは製造品質や金型の摩耗に影響すると同時に、製品の印象も大きく左右します。これがいい加減だとプラスティッキーな印象になってしまうのです。パドルの羽根状の操作面はベース部分に対して三次元的に捻じれた位置関係にあり、パーティングラインが複雑に入り組むため、そこを細かく調整しました。

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それから、車輛への装着の作業性も考慮します。ノーマルのパドルの上にこの製品を両面テープで貼るわけですが、両面テープを貼る際のエア抜きを考慮する必要があります。空気が溜まる箇所には溝状のエア抜き通路を仕込んでおきます。最後に製品の下部にmaniacsのロゴを入れて、これでいよいよ金型製作に着手します。完成が近づいてきました。maniacsのいつものパターンで、この先にどんでん返しの大苦労が待ち構えていないことを祈るばかりです。

下の写真は、あたかも出来上がってしまったように見えますが、実はCGです。三次元CADのデータに色づけしたレンダリングです。今はコンピュータ上でここまでのリアリティが表現できます。正直、工房長もびっくりしました。製品よりも一足先に、これが完成イメージです。主張が強すぎず、シンプルな中にも気品のあるデザイン。絶妙な三次曲面が機能美に溢れています。裏面の3本のリブと8つのディンプルはアウディらしいスポーティさを良く表現しています。っとまずは自画自賛。

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そして発売に向けて商品の正式名称を決定しました。 S-tronic Paddle Progress(S-トロニック・パドル・プログレス)です。VW用のDSG Paddle Extensionとは、実は機能的な意味合いも微妙に異なっています。S-tronicのパドルはVWのDSGパドルに比較してノーマルでも積極的な操作を想定した形状になっています。なので極端に拡張するとかえって使いにくくなるのです。その僅かの不足を微調整してフィット感を最適にするという設計思想を、Progressの名称に込めています。(つづく)