工房長です。前回Audi用maniacsパドルエクステンション開発記(3)で形状デザインの確定までを解説しました。その後の開発状況をご紹介します。「開発過程みたいなことに、それほどの興味はないよ」という方にとっては、そろそろ「いいから早く商品発売してよ」という感じになってるかもしれませんね(苦笑)。毎度maniacsの開発は、この一歩ずつ着実な詰めの作業をどうしても通ります。もうしばらくお付き合いください。

機能性とデザイン性を両立する形状ができたら、それで完成じゃないの?というと、それ以外にも考慮しなければならない要素があります。ひとつは、製品の質量です。この製品は簡単に言えばパドルを延長するだけなのですが、延長拡大したサイズの割に質量が軽すぎると、操作の際の感触が軽々しくなって不自然になるのです。と言って、もちろん重すぎればバタバタする感じで操作性は悪くなり、この製品の場合は質量が適切であることがとても重要な要素なのです。

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形状がほぼ確定した段階でCAD上で体積を計算し、材料の比重を掛け算して、質量を求めます。計算すると約26グラムでした。現在販売しているGolf5,6系用を開発した経験から言って、これは少し軽すぎます。もう少し重くして操作の際のイナーシャを稼ぐ必要があります。質量を調整する方法はいくつかありますが、今回は基本検討の段階から質量不足を予測していたので、剛性の確保も兼ねてインサートモールドという手法を採用する方針としていました。左のポンチ絵が初期段階の構想です。

インサートモールドは内部に金属を入れてプラスチックで鋳ぐるみにする成形技術です。まずインサートを入れる部分の厚みをCAD上で正確に測りました。その結果は真ん中の図で、これを基にインサートの形状を決めます。右が断面のイメージで、型の内部に金属板を入れた状態で、その周囲にプラスチックを射出成型します。あんこを入れてたい焼きを作る感じです。これは金属板の固定方法の検討図で、最終的には別の方法を採用しましたが、実はディンプルのデザインはここから生まれました。

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プラスチックモールドを設計する上で、もう一つ配慮しなければならない重要な項目があります。それは製造品質を安定させるための「肉盗み」です。プラスチックは成型時に微妙に収縮するので、体積の大きな塊り状の部分は偏肉と言って「ヒケ」の原因になります。形状が微妙に歪んでしまうのです。それを未然に防ぐために、窪みを設けて肉厚を均等に近づけることを肉盗みと言います。ノーマルのパドル表面には縦筋状のリブがあり、それを避けるための溝を兼ねて、肉盗みを配置します。

左が素案のマンガで、これを大雑把な構想として真ん中の絵のようにまずは二次元で正確な検討を行います。インサートモールドと肉盗みをバランスよく配置する必要があります。ファイバー入りプラスチックの比重が1.3程度、インサートする金属の比重が7.9程度、二次元の検討図で重さを計算すると、約38グラム程度で、ちょうど良い感じです。この素案をもとに三次元のCAD上で肉盗みとインサートの詳細な設計を行ったものが右の絵です。いい感じにまとまりました。

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プラスチックモールドは厚肉も良くないのですが、逆に極端に薄い箇所があるのも品質が安定しないので、最少肉厚を守る必要があります。インサートの金属板を平面のまま入れられるか、曲面にしないといけないかを決めるため、最少肉厚を確認します。その結果、インサートする金属板の厚みが1.2mmであれば、平面で入れられることが確認できました。インサートの周りのプラスチックは、最少肉厚以上を確保できているので問題ありません。

肉盗みは、装着面(両面テープを貼る面)に設けるだけでなく、右の絵のように、その外側にも設けます。製品になった際の形状をピシッと安定させたいので、偏肉の箇所はできるだけなくしておきたいのです。ここは装着した状態でも微妙に見える位置ですので、ルーバー状のデザイン処理を行って製品にマッチさせます。肉盗みと言えども外観デザインの一部ですので、微妙な角度や細部の形状にまでこだわって、妥協なく調整しました。カッコ良くキマったと思います。

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それから、パーツの分割です。この製品はツーピースを嵌め合わせる構造にしています。一体型で作ってしまった方が、作り易いしコストも安くできますが、より繊細でシャープなデザイン処理を可能にするために分割の構成にしています。左がデザインの素案を示すポンチ絵で、真ん中の絵のようにクロスセクションを確認しながら具体的な三次元形状に作り込んでいきます。嵌め合わせの構造部分の詳細を決めて、部品を2つに分離して、右図のように製品の構造をCAD上で完成させました。

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この製品のスタンダードなバリエーションとしては、パドルエクステンション本体部分がブラック、外側のフランジ部分が金属調のシルバーという構成を想定しています。CAD上で色づけまで行ってみて、イメージを確認します。フランジの太さは、表から見たときは縦の辺が横の辺よりも太く、裏から見たときは逆に横の辺が縦の辺よりも太く見えるようにしています。車輛のステアリングに装着した際に違和感なく溶け込んで、なおかつコックピットの演出に効果的なアクセントとなるデザインです。

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パーツの分割、組立構造については、製造性や品質への配慮も必要です。少し技術的になりますが、パーツは三次元的に捻じれた形状で、それに対して噛み合わせの溝は金型の開く方向(=抜き方向)と一致している必要がありますので、単純に幅一定の溝をぐるっと配置したのでは駄目なのです。真ん中の絵、右の絵のように、嵌め合わせのクリアランスを正確に設定するとともに、各部のR(角の丸め)も詳細に指定して、いよいよ最終形状の確定です。

ここまで確定した段階で、もう一度NC切削加工で精密な二次試作を行いつつ、平行していよいよ金型の検討に着手します。話が長くてすみません。次回、開発記(5)でいよいよ量産用金型の製作に着手します。完成に近づいてきています。ご期待ください。(つづく)