工房長です。前回Audi用maniacsパドルエクステンション開発記(2)でお知らせしましたAudi用maniacsパドルエクステンション開発のその後の進捗です。プラスチックのNC切削でワンオフの試作を行ったところまで前回ご紹介しました。NCというのはニューメリカル・コントロールの意味で、CADデータに基づいた数値制御で加工機を動かして、CAD上の形状を極めて正確に実物に再現できます。それで出来上がったプロトタイプを、実際にステアリングに装着して評価を行いました。

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まず確認すべきは、基本ディメンジョンです。つまり、操作性に関わる重要な部分の寸法が狙い通りになっているのかを正確に測定して、評価しました。最初にノーマルのパドルに対するエクステンションの装着位置や角度を確認します。測定してみると、ステアリングホイールの基準円に対して、パドルエクステンションの操作面の平行が微妙にズレていて、上部と下部で0.5〜0.8mmくらい高さが違っていることが分かりました。

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ステアリングホイール、ノーマルのパドル、パドルエクステンションのモックアップを別々に測定して重ね合わせる際に、僅かな誤差が蓄積したものと思われます。実用には問題ないレベルの誤差ですが、ここは妥協せず完全に平行になるようにCADデータを修正します。この修正を行うと面のつなぎの辻褄が微妙にズレるため、その部分の形状ももう一度きちんと合わせました。

それから、純正のパドルに対する嵌め合わせは、0.2mmのクリアランスで設計していましたが、プロトタイプで実際に嵌め合わせると少しガタが多きすぎる感じです。ここは0.1mmにまで詰めることにしました。設計上も製品製造上も大き目のクリアランスを設けた方が簡単なのですが、装着の誤差をなくしてDIYでピシッと装着できるようにするためには、クリアランスは極力小さくしたいのです。

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ノーマルのパドルに対するエクステンションの装着位置が確定したところで、操作性を決定づける最重要な要素として、操作部の外周ラインの高さを確認しました。ここは試作の前からCAD上で2〜3mm高いことは分かっていたのですが、すでに概ね下げられる限度まで下げてあったのと、たった2〜3mm高いくらいで果たして操作性にそんなに影響するのかという疑念もあり、まずはその状態で試作を行ったのです。実際に装着して試すと、3mmの違いで操作感が大きく違ってしまっていて、とても妥協できないレベルだと分かりました。

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操作ラインは既にほぼ一杯まで下げた設計になっており、上図の3-1〜3-4のような多岐に渡る細かな調整の積み重ねで、何とかあと3mmを下げるように頑張ります。形状の制約条件の範囲内で0.何ミリかを地道に稼ぐ感じで少しずつ切り詰めていきます。修正依頼とCADデータのチェックのやりとりを繰り返し、本当のギリギリまで調整しました。それらの合計でなんとか目的のディメンジョンにまで操作ラインを下げることができました。

操作する際に指が直接触れる外周付近の裏側は、面の角度に対して指先のフィット感がいま一つだと分かったので、操作ラインの引き下げと併せて面の角度も最適化しました。ここでもまた修正依頼とCADデータチェックのやりとりを2回繰り返して詰めています。これらの調整で、結局CAD上の形状を丸々5回くらい描き直した感じですが、この部分の操作性こそが製品の要であり生命線とも言える箇所ですので、一切の妥協なく最後まで詰めました。

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ディメンジョンを理想の値にするためにCAD上で形状を何度も微調整したので、円錐面の中心がステアリングのセンターから微妙にズレてしまい、ここも妥協せずに最後に円錐面全体をもう一度貼り直して正規化しました。たぶん製品化した際には絶対に気づくことないような微妙なズレですが、ここまで来たので拘りでちゃんと正規化しました。

ディメンジョンが整ったところで、細部のデザインも試作品でチェックをして、その結果をCADデータにフィードバックします。CAD画面で見るのと、実際の立体で見るのでは微妙に印象が異なりますので、隅々までデザインの整合性とか普遍性みたいなものを実物で確認して、微調整するのです。

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実際の製品では指を掛ける操作面とパドルエクステンションの本体を別部品のツーピース構造にする予定ですが、その継ぎ目のラインと掘り込みの形状のバランスを微調整して整えました。それから、裏面のデザインは車輛に装着した状態ではあまり見えない部分ですが、3本のリブの深さと位置のバランスを整え、装着面の裏側にはディンプル上のデザインを追加することにしました。末節の部分の辻褄みたいなことが、全体の本物らしさのために実はいちばん大切なのです。

これで外観の形状は概ね煮詰まった感じです。しかし製品の製作に移るまえには、他にも調整しなければならないことが少なからず残っています。おそらく最終的に出来上がる製品は、当たり前のように見えると思います。その何の違和感もない「当たり前」を狙って、全ての要件を設計に織り込むには、まだまだ考慮しなければならないことがあるのです。ようやく道半ばといった感じです。(つづく)