工房長です。T3,T4と修正を繰り返して、だんだん金型メーカーさんに気が引ける感じになっていたのですが、そう感じていたのは実は私だけでした。T4のとき「ここの修正は大変だから、そのままでも良いかな」のようなことを金型メーカーさんに言うと、「いや、ここで妥協しない方が良いですよ、気が澄むまでやってください」と逆にたしなめられてしまいました。

成型メーカーさんも、厄介な成型にとことん付き合ってくれました。一般的に、プラスティックは量産性があって、安くできるのがメリットなのですが、maniacs DSG Paddle Extensionの射出成形条件はちょっと非常識なほど厳しいものになってしまいました。 たぶん、普通のプラスチック成形メーカーでは到底受けてもらえないような、手作り感覚の仕事なのです。

VW maniacs 16この金型製作と射出成型をお願いしているのは、いずれもエンジニアリングプラスチックを専門でやってる、難しいのが得意のところです。言わば、日本のプラスチック成型技術の粋です。まず、一般のプラスチック製品は材料を射出したらそのまま冷やして固めるのですが、今回のは材料を射出したあと固まるまで材料圧を掛け続けるタイプの成型機です。そういう特殊なのを普通にやってる成形メーカーなのですが、その中でもこの成形条件はちょっと珍しい部類のようです。

っと言うのも、通常のプラスチック製品は1分くらいの間隔で打てる場合が多いのですが、この製品のタクトタイムはなんと4分です。つまり、1時間フルに稼動して15セットしか成型できません。形状精度を出すために、金型を締めて材料圧を掛けたまま200秒以上冷却します。200秒って、ぴんと来ませんが、カップラーメンにお湯を入れてから食べられるまでより長い時間待って、やっと型を開けるのです。

VW maniacs 15通常のプラスチック部品は、型が開いたら製品が自動で押し出されて、下にぽろんと落ちて溜まるのですが、この製品は、型が開いて製品が出てきた瞬間に取り上げて、4秒以内に冷たい水に浸して冷却しています。それをしないとガラス繊維が製品表面に浮いてしまうのです。即座に水冷することによって表面状態が綺麗に仕上がるとともに、製品同士がぶつかって傷になるのを防いでいます。

VW maniacs 11ガラスファイバー20%の形状精度の高さと剛性感を確保しながら、表面の質感を納得のいくレベルまで高められたのは、この成形技術があってこそなのです。そして外観でもうひとつ拘ったのは、材料調色です。レギュラーのブラックでも問題ない色合いだったのですが、ノーマルのパドルは微妙にグレイがかったブラックです。これに色を合わせるため、材料メーカーに特注色のペレット(材料)を発注しました。

その時点では知らなかったのですが、調色ペレットの標準納期はなんと60日です。それでは発売開始に到底間に合わないので、あの手この手で何とかお願いして納期短縮してもらいました。写真は材料の色見本サンプルで、標準見本を真ん中に、明るめ限度、暗め限度と3枚並んでいますが、ちょっと見たところ全部ただの黒にしか見えません(苦笑)。っが、レギュラーのブラックの材料と比較すると、確かに微妙に違います。この微妙さが、まさにノーマルのパドルの色なのです。

VW maniacs 08Paddle Extension本体の最後の詰めと並行して、表面に貼る化粧プレートの開発も進めます。これがまた結構なプロセスを踏む必要があるのです。3次元CADから吐き出されたプレート部分の形状データを、2次元CADに取り込んで0.1mm内側にオフセットし、寸法を入れて図面化します。そのデータを下敷きにデザインを描いていきます。今回、エッチングのデザインは工房長自ら手がけました。

VW maniacs 09描いたデザインと2次元CADのデータを併せて版下作成の会社に送り、イラストレーターのデータに変換してもらいました(工房長はイラレが使いこなせません)。出来上がったデータをステンレスエッチングのメーカーに送って、ステンレススチールのプレートに加工してもらいます。っが、なんと工房長の指示不明確のいため、ヘアライン方向を誤って製作してしまいました。しかも全数。・・・いろいろ起こります。

VW maniacs 10ステンレススチールプレートは、上部プレートのみ急遽全数再製作をかけてもらい、なんとか納期に間に合わせることができました。同時に、別仕様のリアルカーボンタイプも開発を進めました。ウェットカーボンに樹脂加工を施した仕様です。ステンレススチールとはまた違った趣に仕上がって、これはこれで素敵です。発売はステンレススチールタイプが6月末、カーボンは1週間遅れで7月初旬の予定です。

企画からはや7ヶ月半、いろいろありましたが、ついに完成したmaniacs DSG Paddle Extension。専用両面テープの型抜きも出来上がってきました。maniacs関係者の車両に装着して、最終確認を行いました。狙いどおりの完成度で、自信を持って発売開始できそうです。ステンレススチールタイプのディティールは3種類。エッチングデザインなしのプレーン、エッチングのみでデザインを表現したベア、そして下の写真はエッチング部にブラックインクをあしらったインクドです。

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ひとつ、最終確認で見つかった課題ですが、オープンボディのEOSとツードアのシロッコでは、走行条件によって稀にPaddle Extensionのステンレススチールプレートに外光が反射して眩しく感じるケースがあります。走行安全にかかわる課題ですので、maniacsとしてはステンレススチールタイプはEOSとシロッコには適用外とさせていただきます。何卒ご了承お願いします。別バージョンをリリースするまで、もう少々お待ちください(リアルカーボンタイプは問題なく適合します)。

VW maniacs 20maniacs DSG Paddle Extensionは、仕上がり品質に拘って開発しましたが、真骨頂はなんと言ってもその操作感にあります。プラスチック成形品として開発した理由も、ひとつには質量を抑えることが目的なのです。重すぎず、イナーシャを感じることなく軽やかに操作できます。自然に指を伸ばしたところにパドルがある、それだけでドライバーとDSGとの関係を、ずっと密接かつアクティブにしてくれるのです。

maniacs DSG Paddle Extension 開発記(1)
maniacs DSG Paddle Extension 開発記(2)
maniacs DSG Paddle Extension 開発記(ちら見せ)
maniacs DSG Paddle Extension 開発記(3)
maniacs DSG Paddle Extension 開発記(4)
maniacs DSG Paddle Extension 開発記(5)

工房長の長〜〜〜い開発記(爆)は、これにて完結です。全編お読みくださった読者の皆様、こんなマニアックで浪花節っぽい話にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。そしていよいよ、この週末には発売できる予定です。

ここにたどり着くまでには幾多の苦労がありました。しかし、開発に苦労したかどうかは率直に言って製品の価値とは関係ありません。製品を実際に手にとって、装着して使って、それで感じられる価値が全てだと思います。maniacsベゼルの発売前のあの緊張感を、いま思い出しいています。ベストを尽くしましたが、果たして皆様にどんなふうに感じて頂けるのか、期待と不安で胸が張り裂けそうです。

調色した材料ペレットが成形メーカーに届いたのが24日、4分タクトで10時間かけて成形を行い、初日完成の150セットが26日入荷の予定です。それから、検品、仕上げ、アッセンブリー、パッケージングを行い、同時に商品写真も撮影してアップします。うまくいけば28日に初回ロット分を発売開始できる予定です。詳細の時間が決まりましたら、またお知らせします。もう少々お待ちください。(つづく)